消費財メーカーの営業力を強化するヒントをお伝えしていく本コラム、前回はデータの活用をテーマにお伝えしました。
今回は「キーアカウントマネジメント、JBPの進め方」をテーマにお伝えします。
シリーズ構成
- 第1回:採用率を高める提案ストーリー ポイントは「得意先目線で整理する」
- 第2回:営業現場でのデータ活用の目的と現状
- 第3回:キーアカウントマネジメント、JBPの進め方 ←今回
- 第4回:営業マネージャーの戦略立案とチームマネジメント
「取り扱って売ってもらう」から「一緒に伸ばす」へ
キーアカウントマネジメント(KAM)とJBPが変える小売業への営業の現場
バイヤーとの関係、それは本当に「パートナーシップ」ですか?
「新商品、ぜひ導入をお願いします!」
「〇月の当社フェアを実施しませんか?」
こんな会話を毎月繰り返している営業の方、実は多いのではないでしょうか。
もちろんこれが悪いわけではありませんが、ふと立ち止まって考えてみてほしいんです。
それって、本当の意味でのパートナーシップになっていますか?
■ 小売業の「大再編」が、メーカー営業の常識を変えつつある
ここで改めて小売業をとりまく環境の変化から整理していきましょう。
近年、ドラッグストアやスーパーマーケットでは、業界再編の動きが加速しています。象徴的なのは、2025年12月に経営統合したウエルシアホールディングスとツルハホールディングス。売上高2兆円を超える巨大チェーンが誕生し、ドラッグストア業界は大転換期を迎えています。スーパー業界でも同様の動きは続いており、M&Aによる統合・再編が業界全体で進んでいます。
この「小売業の大規模化」がメーカーの営業現場に何をもたらすかというと、大きく2つの影響があります。
① 営業窓口が減る
チェーンが統合されると、メーカーが交渉する本部バイヤーの数もやがて統合されていきます。以前は複数の地場チェーンへ個別に提案できていたものが、1つの巨大本部とやり取りする構図に変わります。当然、その1社との関係が、これまで以上に自社の売上を左右することになります。
② バイイングパワーが増す
規模が大きくなるにつれて、小売業の仕入れ交渉力も強くなる傾向にあり、価格・条件面でメーカーが受ける圧力は、今後さらに増していくことが予想されます。
こうした環境変化の中で、「商品を売り込む」だけの従来型の営業スタイルだけでは、関係を維持することすら難しくなってきています。だからこそ今、「どれだけ商品を棚に並べてもらえるか」「どれだけ販促枠を取れるのか」という短期的な交渉中心のスタイルから脱却し、小売業との関係そのものを根本から見直す動きが広がっています。
そのキーワードが、 キーアカウントマネジメント(KAM) と JBP(ジョイント・ビジネス・プラン) です。
■ キーアカウントマネジメントとは
得意先を「担当する」から、「マネジメントする」へ
キーアカウントマネジメントとは、重要な取引先を選定し、戦略的に管理する手法という考え方です。
消費財メーカーに限らず、売上の大部分がごく一部の得意先に集中していることがほとんどです。
コンビニ大手3社、スーパーの主要チェーン、ドラッグストアの上場企業......これらの「キーアカウント」との関係が、年間の業績を大きく左右します。
だからこそ、キーアカウントの担当者には、普通の営業とは違うスキルが求められます。単に「仲良くする」のではなく、相手のビジネスを深く理解し、自社商品の取引だけに留まらない接点を持てるかどうか、が問われます。
よくある誤解は、キーアカウントマネジメントを「上位の得意先を担当する特別な営業職」だと思ってしまうこと。
ですが本質はそこではありません。ただ得意先を「担当する」のではなく、「その得意先のビジネスを一緒に成長させる」という意識の転換が必要です。
バイヤーの目標、チェーンとしての戦略、カテゴリーの課題、それを自分ごととして捉えられるかどうかが、キーアカウントマネジメントが機能できるかどうかの分岐点になります。
■ JBPとは
「お願いする」から「一緒に設計する」へ
キーアカウントマネジメントという考え方が浸透してくる過程で生まれてくるのが、 JBP(ジョイント・ビジネス・プラン) という考え方です。
JBPとは、メーカーと小売業が協働で計画を作り、数字とアクションを一緒にコミットするプロセスです。
具体的には、次のような要素が含まれます。
- 取り組むべきテーマの設定:共に何を目指していくかを設定する
- 中長期的な方向性:半期・年間に留まらず、中長期的にどのようにしていくかの目線を合わせる
- 上層部・他部門の巻き込み:カテゴリーに留まらない内容も増えるので、必要な関与者のコミットが重要
- KPIの設定:売上・利益・カテゴリーシェア・来店客数など、注視すべき指標をお互いに合わせる
- 定期レビューの実施:月次・四半期ごとに進捗を振り返り、PDCAを回す
「それって、普通の商談と何が違うの?」と思うかもしれません。
大きな違いは視座の高さと時間軸の長さです。通常の商談は「今月・今期の話」が中心ですが、JBPは「1年後・3年後向けてどうしていくか」という議論をベースにします。
そして何より、JBPは「メーカーがお願いする」のではなく「お互いがコミットする」という構造が本質です。
小売業側も一緒にコミットするから、単なるぞれぞれの要望の場ではなく、真剣な議論の場になる。そこが最大のポイントです。
■キーアカウントマネジメントとJBPは「セット」で機能する
キーアカウントマネジメントとJBPは、それぞれ独立した概念ではなく、表裏一体の関係にあります。
キーアカウントマネジメントが「体制や役割の設計」だとすれば、JBPはいわばその「実行策」のひとつです。
いくら優秀なキーアカウント担当者がいても、協働の計画がなければ動き方がバラバラになる。逆に、JBPの推進フォーマットだけを作っても、担当者が得意先を深く理解していなければ、「形だけ」になって終わってしまいます。
■ 現場で感じる「壁」と、乗り越えるヒント
とはいえ、現場でキーアカウントマネジメント・JBPをしっかりと機能させることは、簡単ではありません。
様々な現場からよく聞く壁を正直に挙げてみます。
壁① 上層部や得意先が短期志向で、長期計画に理解がない
キーアカウントマネジメントやJBPは成果が出るまでに時間が掛かる場合があります。社内の理解を得るためには、「長期投資」としての位置づけを明確にして、定期的に上層部にも報告することが重要です。得意先も短期志向が強い場合があります。これにはメーカー側が啓蒙を続けていくような営業活動が必要です。
壁② 得意先が「数字のコミット」を嫌がる
JBPは双方向のコミットが前提ですが、小売側は立場上、数字を約束しにくいこともあります。最初はKPIの設定を緩めにして、「一緒に見ていく」文化を育てることから始めるのが現実的かもしれません。
壁③ PB・専売品・先行発売品の取組が前提になる
昨今、小売業の競合他社との差別化策として、メーカーに対して「PB・専売品・先行発売品をやってくれるなら...」という要望が増えています。このような商品の取り組みに対応できるかできないかで協働できるかできないかが決まってしまう、という構図も強くなっています。
壁④ 担当者が変わるとリセットされる
人が変わるたびに関係性が崩れる、という話はよく聞きます。これを防ぐためにも、JBPを「人の資産」ではなく「会社の資産」として定例化・蓄積していく仕組みが必要です。
■今回(第3回)のまとめ 「売る営業」から「育てる営業」へ
キーアカウントマネジメントとJBPで目指すのは、一言で言えば「売る営業」から「育てる営業」への転換です。
短期的な数字を追いかけながら、同時に長期的な関係を育てる。バイヤーの課題を自分ごととして考え、カテゴリー全体を一緒に伸ばすパートナーになる。それができたとき、メーカーと小売業の関係は本当の意味でWin-Winになります。
現場の忙しさの中でつい後回しになりがちですが、今お読みいただいている方は、これをきっかけに一度キーアカウントとの関係を見直してみていただければと思います。
「一緒に協働プランを設計できている取引先が、いくつありますか?」――その問いが、次のステップへのヒントになるはずです。
筆者
