第4回では、"現場で使えるマニュアル作りに必要な2つの視点"をとある接客業務のマニュアル作りをケースに解説しました。
(第4回現場で使えるマニュアル作りに必要な2つの視点(事例から))
第5回では、実際にマニュアルの原稿を作成する段階で、込めるべき"思想"について触れていきます。
良いマニュアルとは?
企業で人を育てる上で、特に新人育成のような初期教育において、良いマニュアルとは何でしょうか?
体系的で論理的に解説されたマニュアルなのか、難しい言葉を使わずにわかりやすい表現で書かれたマニュアルなのか。このような要素は良いマニュアルである条件の一つではありますが、むしろ必須のことであり、もう一歩踏み込んだ視点で考えたいと思います。
私の考えでは、良いマニュアルと、そうでないマニュアルを分けるポイントは"その企業の理念やブランドを伝承し、マインドを育てる要素が含まれているか?"です。つまり企業が根底に持っている考え方や思想の部分です。
私がマニュアル作りをご支援する際には、クライアントにインタビューさせていただきながら、この考え方や思想の部分を掴み、業務内容の解説に盛り込むことを重要視しています。なぜならその考え方や思想が、これから教える業務に、その企業・ブランドだからこその意味や意義を生むと考えているからです。
そして教わる側の人材からすれば、なぜその業務を身につけるのか、なぜそのレベル感で身につけることが求められるのか、といった学ぶ理由となり、納得感やモチベーションを育むことにつながるのです。
WHAT とWHY
身近なケースとして、オフィスの電話応対を例に考えてみます。下記は電話を1コールで取ることを教えたい場合の表現です。
A「電話は1コールで取りましょう。ビジネスシーンにおいて、電話は3コール以内に取るのが常識とされていますが、早ければ早いほど好印象です。」
B「電話は1コールで取りましょう。一般的に3コール以内であれば失礼にはあたりませんが、スピード対応は我社の顧客対応の強みです。電話一本であっても、お待たせしないというのが我社の考え方です。」
Bに、この企業の思想が込められていることがお分かりだと思います。
どちらも、電話を基本的に1コールで取って欲しいこと(WHAT)を伝えていますが
Aは1コールの方がより好印象だから
Bは自社の顧客への姿勢を示し、スピード対応によって差別化を図りたい
という理由(WHY)の違いがあります。
電話を何コールで取ることの是非ではなく、なぜそのコールで取って欲しいのかという理由(WHY)に、その企業の思想が込められています。その思想こそが、その企業で働く人材のマインドを育てていくのです。
教わる側の人材にとっても、作業としての1コール応対を教えられるよりも、1コールで取ることの意義を教えられる方が納得感があり、実践しやすいのです。仮に今後担当業務が変わって電話応対しなくなったとしても、スピード対応することの意義は残り、他の業務でもそのスピードを発揮することでしょう。
こういったWHYをWHATと一緒にマニュアルにちりばめていくと、その企業ならではの思想が込められた良いマニュアルになっていきます。
次回は、教える体制づくりの②として、教える側(育成担当者)の育成について触れていきます。
筆者
マーケティング研究協会
中村 佳美
商社の事務職、営業コンサルティング会社の営業職を経て、2012年マーケティング研究協会入社。企画営業職として、クライアントの営業力強化、マーケティング強化を支援している。クライアントの支援を通じて学んだ人材育成ノウハウ、新人時代に受けた上司の優れたOJTの経験を活かし、営業販売部門のOJT・人材育成業務のマニュアル作成支援も行っている。