ここ数年、OJTや人材育成のためのマニュアル作成のご依頼が増えています。 発想力や思考力、柔軟性や臨機応変さが求められるこのご時世で、あえてマニュアルが求められる背景には何があるのでしょうか?
背景1:人材不足で人材育成も効率化を求められている
多くの職場が人材不足の問題に直面しています。人は減っているのに業務は増え、目標は上がる一方。だからこそ、「新しいメンバーには早く一人前に育ってほしい、戦力になって欲しい」という思いで迎え入れていると思います。
しかしながら。既に現場は少ない人数で必死に業務を回している状況です。
何とか短時間で効率的に仕事を教えられないか、というのはOJT現場の切実なニーズだと感じています。
背景2:集合研修は必要最低限に 自己学習やOJTへ重き
人材育成を業務としている研修部門においても、効率化の波は避けられません。
ただでさえ余裕がないと悲鳴を上げている現場から、人員を引き離し業務を中断させることは難しくなっています。
誰にでも同じように教育機会を与えてきた体制から、教育の投資効果がより期待できる社員に絞り込んだり、自ら学ぼうとする意欲の高い社員をサポートする、という方向にシフトしていくことも十分理解できます。
それは単なる体制の変化ではなく、「現場には、より一層OJTを期待する」「社員は自分で自分の育成課題を考え、成長のためのプランを計画し実行することを期待する」という、人材育成に対する企業のスタンスの変化と捉えています。
背景3:教える側が抱える課題(働き方改革、組織のフラット化)
企業内でのOJTのニーズが高まる一方で、その役目を担う現場の育成者(教える側)も困難に直面しています。
その一つが「働き方改革」の影響です。自分が上司から育ててもらった時代と違い、業務時間外に指導することも、毎日顔を合わせてコミュニケーションをとることも困難な環境になりました。自分が育ててもらった手段が使えない環境下で、どうやって人を育成したら良いのかと、多くのお困りの声を耳にしています。
「組織のフラット化」も困難になりうるのではないでしょうか。上下関係は残っているものの、各自が自律して業務を回している組織の中では、人材育成ミッションの在りかが、あやふやになっていることが珍しくありません。面倒見の良い社員がいれば幸いですが、それでもスキルやノウハウの伝承はその人流にならざるを得ません。
マニュアルは人材育成の強力なサポートツール
このような環境において、マニュアルは、その業務におけるコア=(誰もが備えるべき必須の業務スキル・能力)を、効率的に教える有効なサポートツールとなりうると考えています。なぜなら、
・教えたい業務やその順番が整理され、見える形でまとまっている
・誰が教えたとしても、必須の教えるべき業務は、抜け漏れなく教えることができる
・新入りのメンバーにとっては自己学習(予習復習)のテキストになりうる
このようなことから、"時間を短縮しながら教えるべきことを教える"、ということを実現するためにマニュアルの必要性が高まっているのではないでしょうか。
マニュアルを作っただけで育成現場の問題が解決するの?という声も聞こえてきそうですね。次回は現場における、"教える体制づくり"について触れたいと思います。
筆者
マーケティング研究協会
中村 佳美
商社の事務職、営業コンサルティング会社の営業職を経て、2012年マーケティング研究協会入社。企画営業職として、クライアントの営業力強化、マーケティング強化を支援している。クライアントの支援を通じて学んだ人材育成ノウハウ、新人時代に受けた上司の優れたOJTの経験を活かし、営業販売部門のOJT・人材育成業務のマニュアル作成支援も行っている。