第3回では、マニュアル作成に入る前に考えておきたい2つのポイント「育成計画」「いつ誰がどのように使うのか」に触れました。
(第3回現場で使えるマニュアル作りに必要な2つの視点)
第4回では、もう少しイメージが沸きやすいよう、某企業の店舗におけるマニュアル作りを例に解説していきます。
マニュアル作成背景
この企業には、店舗で顧客対応をするスタッフがいます。お客様をお迎えし、営業担当者に引き継ぐまで快適に店内で過ごせるように気を配り、最後は営業担当者と共にお見送りをする業務です。会社の体制変更に伴いそのスタッフの集合研修がなくなり、現場ではOJTによって新人を育成する体制を急ピッチで調える必要性が出てきました。
視点1:人材育成の計画
最初に取り組んだのは、顧客対応に必要な業務を洗い出すことです。 全国で最も優秀なスタッフと一緒に、その業務に従事するにあたり、誰もが備えるべき「マインド」と「業務内容」を洗い出しました。その数百数十項目です。
そこから、その項目全てを"6ケ月で習得しできるように育てる"という期日を設定し、そこから「入社初日」「入社~3日間」「~1週間」「〇ケ月」「~6ケ月」と教える時期を時系列に並び替えていきます。時系列にしてみると、同じ"コミュニケーション"というカテゴリーの項目でも、通常の業務をしながら教える・教わるのに適切な順番があり、入社間もない時期と半年後では求める内容も変わってくることが分かります。
これが現場で使えるマニュアルを作るうえで、土台となる計画です。"いつまでに何ができるように育てたいのか"を明確にすることで、どのようなストーリーで育てていけばよいのかが見えてきます。
視点2:いつ誰がどのように使うのか
この企業の店舗では、OJTができるレベルのスタッフは限られており、全ての店舗にいるわけではありません。つまり数名のOJTスタッフで複数店舗を回りながら、OJTを互いに引き継ぎながら育てていく体制です。
この体制で重要なのは、どこまでOJTが進んでいるのか、情報を共有できることです。
教えるべきことは既に時系列で整理されているため、それに連動した「チェックリスト」を付けました。これによって新人AさんはどこまでOJTが進んでいるのか、前回までに教えた内容がどこまで実践できているのかを誰もが確認できます。マニュアルを情報共有ツールにしてOJTのPDCAを回せる仕様にしたのです。
もう一つ教えるスタッフのために用意したのが、業務マニュアルと連動した「教え方のマニュアル」です。
OJTをするスタッフの本業は顧客対応なので、人を育てるための訓練を受けているわけではありません。"人を育てるための心構え"、"このページはどのように教えれば良いのか"、"この業務で一番強調して伝えるべきことは何なのか"など、OJTをする側が迷わず自信を持って教えられるサポートツールを用意しました。
この事例が示しているように、人材育成の計画やマニュアルを使う人や場面を明確にすることで、マニュアルの機能が変わってきます。単に業務を整理するのではなく、"現場のOJTを進めやすくするにはどうしたら良いか"という視点は、使えるマニュアルを作る大切な視点なのです。
次回は、いよいよマニュアルの中身について触れていきます。
筆者
マーケティング研究協会
中村 佳美
商社の事務職、営業コンサルティング会社の営業職を経て、2012年マーケティング研究協会入社。企画営業職として、クライアントの営業力強化、マーケティング強化を支援している。クライアントの支援を通じて学んだ人材育成ノウハウ、新人時代に受けた上司の優れたOJTの経験を活かし、営業販売部門のOJT・人材育成業務のマニュアル作成支援も行っている。