コラム

「コロナがもたらす医薬品マーケティングへの影響」 ~新型コロナウィルスが、医薬品マーケティングの現場にもたらしたもの 第2回~

株式会社マーケティング・インサイツ 代表取締役

尾上 昌毅

2020.09.17.Thu.

●●を成功させる人は、「できる方法を探す」ひとだ
反対に
●●に挫折する人とは、「できない理由を探す」ひとだ

●●に入ることばは何だと思いますか?

何が入っても、概ねあてはまりそうですね。


もともとは、●●には「ダイエット」ということばが入るようですが、「ブランディング」でも「イノベーション」でも成り立ちそうです。
このコロナ禍において、自分の製品のマーケティングやブランディングに成功するマーケターは、当然ながら、ともかく「できる方法」を何とか探せるひとです。


正解も、前例もない。仮にコロナが終息したとしても、たぶん従来のような「古き良き時代にもどることはない」ということだけが確実なのが今の世界です。


デジタルでできること、あるいはむしろデジタルが便利なところを、コロナ禍の状況下で学習してしまった顧客がいれば、それはもとには戻らないはず。
もし戻ることがあるとしたら、DXの時代でも、やはりパーソナルセリング(オフライン営業)でしかできない何か、あるいはパーソナルセリングがよりうまくできる分野限定ということになるでしょう。


前回、オンラインとオフラインがシームレスにつながるかたちが今後大事になる、と書きました。それは具体的にどんなことを指すのでしょうか?少し考えてみましょう。


これまでも、オンラインとオフラインの共存のような話はずいぶんされてきました。両者の役割分担もおおよそ判明しつつあります。
例えば、ターゲットの軒先を拡大する際に、それが自社から見た場合の非専門医のように、当該領域治療やクラス薬剤に関与度がそれほど高くない医師に対しては、オンライン施策で広く浅くリーチを広げることが効率的・効果的です。
一方、専門医や関与度の高い医師に対しては、オンラインだけで認知をしてもらい、処方検討までしてもらうことは難しと言われます。したがって学会などの他の手段と組み合わせ、さらに(可能であれば)オフラインを援用する相補的なありかたが志向されます。


各企業は、顧客候補の医師が、自社製品の情報取得に関して、実際にオンラインとオフラインをどの程度併用しているのか、いないのかを把握して、データ化することがクリティカルになります。今後の医師セグメンテーションでは、こうしたオンライン/オフライン活用という属性は、医師を細分化する際の軸の有力な候補となります。


そのためにも、オフラインでの医師へのアプローチに関する有効で正確な記録情報が、もっとデジタル化されてオンラインと同じ土俵で使えるようになる必要がありますね。
そこでは、KPIとは違った活用法になります。


また、同じ一人の医師の中でも、オフラインとオンラインの併用、シームレスな展開はさらに改善の余地があります。
デジタル(オンライン)で反応のあった医師に対して、MRがオフラインでフォローするケースに加え、MRの訪問後にオンラインでフォローするやりかたをするためには、オフライン面談の情報がデジタルに記録され収集されて、最適なフォローパターンを企業がAIの力も借りながら見つけてゆくことが重要になります。
シームレスとは、ぶつ切りでなく、少しずつ重なりあいながら、同じ医師に対して、関連情報を届けることを指します。


また、顧客の反応をみながら、企業としても資源配分を同じ期のなかでも、柔軟に変更・調整して進めるしかけを持つことを、マーケティング部は今後よりいっそう求められるかもしれません。


オンラインも、オフラインも施策を考案して進めるのは人の力です。この人材の育成、そして保持が競争力の源泉になります。従来のような、物量作戦が効かないので、あたま数だけをそろえるというやりかたは、価値が大幅にダウンしてしまいます。


オンラインとオフラインの両方に精通した人材を育成し社内に集め、マーケターと一緒になってシームレスな施策を展開できるようにする方法を見つけることが、この時代に成功するマーケティングとなるはずです。


最後に、今後オンラインのやり取りが増えてくると、ヒューマンタッチはもちろん目減りします。筆者は、これはある意味で「甘受」しなければならない条件だと思っています。
しかし、その製品が目指す「ブランドビジョン」までも希薄になるリスクがオンラインにはあるのです。


これは大変危険なことです。ブランドビジョンを顧客に的確に伝えられる(印象付けられる)MRこそは、企業としてどうしても必要な存在です。しかし、MRだけには頼れません。オンラン化の流れのなかでも、製品担当のブランドマネージャーは、何としてもブランドビジョンが希薄化せずステークホルダーにしっかり伝わるよう、パブリックリレーションズはじめ、多様な手段で的確なメッセージを発信し続けることを意識すべきでしょう。


「こんな(具体的な)患者さんのXXの苦しみを軽減して、XXの不安のない世界を実現させたい」などのシンプルなメッセージ(ブランドビジョン)は、企業がその製品を販売する「目的」でもあります。
目的を見失ってしまい、目的を語るのを忘れ、手段の話ばかりに社内が右往左往しないためにも、ブランドマネージャーは、自分の製品のたずなとして、ブランドビジョンをもう一度見直し、医療という現場や世のなかに指し出す時がまさに今なのだと強く思います。


正解は見えなくとも、信念と希望をもって、この時代を切り拓くマーケターでありたいものです。

筆者

株式会社マーケティング・インサイツ 代表取締役

尾上 昌毅

北海道大学薬学部卒業後、プリストルマイヤーズ、キリンビール(現協和発酵キリン)、ノバルティスファーマに勤務。11年のMRを経 験後、教育研修室長、プロダクトマネージャー、マーケティング部長、事業戦略部門長、抗がん剤部門長などを歴任。2009年より現職で医薬品マーケティング研修・コンサルティングを手掛ける。患者さんや医療従事者のインサイトを取り入れた、ブランドプラン作りとプロマネ育成をミッションとして追求している。

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