2019年5月30日(木)UP マーケティング

医薬品プロダクトマネージャーの育成を考える
~MR研修とプロマネ研修はどこが違うのか?~

製薬企業においてMRを研修するしくみやプロセスは、かなり確立しています。特に入社後数年間の育成プランやカリキュラムを持たない企業は無いでしょう。それは製薬協からの研修に関するいろいろな「ガイド」の結果であるかもしれませんが、それ以上に育成の必要性や効果を企業側が一定以上認識しているためでしょう。


それに比べるのもなんですが、新任プロマネ(マーケター)の育成プランについては、その充実度は企業によりさまざまです。

「なぜ、こうした差が生じるのか?」は、ここ何年間も考えてきたことですが、大きく言ってふたつの要因に集約されると思われます。それは、育成対象者数と育成内容です。

最初の要因は育成対象者数で、MRが社内に多数いるのに比べるとプロマネの数は、数十分の一であることがほとんどです。およその比率でいうと、MR400名の企業では、所長クラスのファーストライン営業マネージャーは、40名~50名。一方のプロマネは10名程度というイメージでしょう。10名の対象者に対する育成プランが、400名(MR)や、50名(ファーストラインマネージャー)の育成プランよりも後回しになりがちなのは当然かもしれません。


またMRのほうは、ほぼ毎年一定数供給される(つまり入社してくる)ので、途切れることなく研修などの育成をシステムとして回して行く必要があるのに対して、プロマネは不定期に任命されるという違いがあります。
もう一つの要因は、MRの場合、新人MRが何を身に着ければよいのかは、業界ルールで決まっている部分があり、さらに各企業が自社の優秀MRの持つ行動特性などから、必要なスキルをはじめとしたコンピテンシーを抽出しやすいということがあります。それに比べるとプロマネのほうは、(おそらく)マーケティングの知識は必要だろう、ということはあるとしても、そのマーケティング知識自体どこまでをカバーすべきなのかも明確ではありません。


プロマネに必要なマーケティング知識とは何か、という話題は、次の回に譲ります。こうしたふたつの要因が背景にあるとしても、プロマネの人財開発をどう進めるかについて、いまの後回しにされた状況は決して好ましいものではないことは明らかです。VUCAの時代と言われますが、医薬品の業界もその変化は速く、しかも予測しづらい方向にますます進んでいます。マーケターの育成をするために製薬企業が必要な投資をすることは、ROIの観点からは正当化される可能性は高いでしょう。


何社かの製薬企業のマーケティング責任者につぎのような質問をしたことがあります。
「製品を担当するプロマネのデキ、力量によって、そのクスリの売り上げには、一体どの位の違いが出てくると思われますか?」


答えは(n=4ですが)、プラスマイナス15%~20%というところで4名とも一致しました。つまり標準的(何が「標準」なのかはいったん置いておき)なプロマネがマネジしたときの製品売り上げを100億円とすると、力量の劣るプロマネでは80億円か85億円の売り上げになる可能性があり、一方、優れたプロマネが担当すると120億円あたりまでは期待できる、というものでした。

これは、私個人の経験とも合致しました。ひとりのプロマネが15億円のインパクトを持つ。
これが本当に正しいかどうかは(実験できない以上)判断できないにしても、そのくらいのパーセントのインパクトがマーケティング実務に反映されそうということは、日々、多くのプロマネと接しているマーケティング責任者ご自身が感じているのだとわかりました。


他社からプロマネ経験者を採用する企業もあるでしょう。そうした場合には、このような「プロマネ育成課題」はいったん回避できるのですが、自社の優秀MRをプロマネに採用するケースはまだ多くみられます。したがって、任命時からの最初の1年ないし2年間にどんな経験をつんでもらい、どんな知識を身に着けて実務に臨んでもらうかは本来最重要の課題のひとつになるはずです。しかい最初に述べた主にふたつの要因によって先延ばし、未着手になっているのでしょう。


MRの領域では新人MRに対して一定期間メンターのような役割をアサインする制度を取っている製薬企業は多いと思います。MR以外でも、新人看護師にはプリセプターシップという制度があるのをご存知でしょうか。MRのメンター制度よりは、育成プログラムが標準化されており、どんな時期に何を経験する、何を覚えてもらうなどが詳細に記載されています。なじみのない方は「看護師&プリセプターシップ」で検索するとわかります。
ちなみに九大病院看護部の場合、「プリセプターシップとは新人看護職員(プリセプティ)が仕事と職場にスムーズに 馴染めるように、技術的な指導とメンタル面のサポートを行う教育システムです。1年を通して若手の先輩がプリセプターを担当し、深刻なリアリティショックを体験することなく、看護が実践できるように支えます。」と冒頭に記載があります。(九州大学病院看護部Websiteより)
看護師は毎年5万人が新任として資格を得ている「大所帯」であり、患者さんと接するという意味でもこのようなプリセプター制度で育成する必要性は理解できます。(もちろん、今のプリセプター制度にも多くの課題が指摘されていますが)
医師はどうでしょうか?国家試験に合格してから、ご存知の通り研修制度がありますね。
ヘルスケアの4つの職種で比較したものが、下の表です。




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(*筆者推定)

できるだけはやくブラックボックス状態から脱してプロマネ育成をきちんと考えてゆかないと、当面デジタルマーケティングを追求していても、早晩息切れしてしまうことが懸念されます。


「木を植えるのに最も良い時期は20年前であった。(しかし)次に良い時期は今である。」
という中国のことわざがあるようです。私は、先週参加したATDの学会で聞きました。


始めるのに遅すぎるということはありませんね。


次回はプロマネ育成を考えるときに必要な要素を検討します。

コラム筆者紹介

講師紹介

講師イメージ

講師名 尾上 昌毅
所属 株式会社マーケティング・インサイツ 代表取締役
略歴 北海道大学薬学部卒業後、プリストルマイヤーズ、キリンビール(現協和発酵キリン)ノバルティスファーマに勤務。11年のMRを経験後、教育研修室長、プロダクトマネージャー、マーケティング部長、事業戦略部門長などを歴任。2009年より現職でマーケティング研修・コンサルティングを手掛ける。患者さんや医療従事者のインサイトを取り入れた、開発時から発売後までの幅広いマーケティングの可能性を追求している。
コラム 医療用医薬品のプロダクトライフサイクル(PLC)マネジメント

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