2015年3月24日(火)UP マーケティング人材育成・組織力強化

オンデマンド・ビジットで何を残せるかが製薬企業MRの価値を決める


オンデマンド( on demand)とは辞書的には、「請求あり次第、要求に基づいて」という意味ですが、「クライアント/顧客からの求めに応じて、リアクティブに求められた分だけのサービスを提供すること」を指して使われます。例えば、テレビ番組や映画を利用者が放送・放映時期以降の好きなときに(通常は)料金を支払って視聴できるシステムはビデオ・オンデマンド(VOD)と呼ばれます。
また、顧客の要求に合わせて比較的少部数の冊子や書籍、チラシなどを印刷・製本することは「オンデマンド印刷」と呼ばれるなど、今では広い領域で使われています。


MRのオンデマンド・ビジット(visit)とは?

オンデマンド・ビジットというのは筆者の造語ですが、定義上は「顧客の求めに応じて行なう訪問」のことを指します。
というと、現状ではMRが行なっている病医院への訪問のうち「オンデマンド」型はごくわずかで、恐らく8割以上が「非オンデマンド」型、つまり「お呼びがかかっていない」状況下での訪問になるでしょう。ユーザー(医療関係者)の直接のデマンドの無いままに、病院であればMRが院内を巡回しているという実態があります。
製薬企業としては、まずこの実態を認めるところから出発しなければならないでしょう。
6万人以上のMRが非オンデマンドをメインに活動しているという事実を。
さて、オンデマンド・ビジットのことを思いついたのは、「病院薬剤部から見た、がん薬物療法治療薬の情報提供に関する製薬企業コールセンターの評価」を実施し、がん専門病院283施設の薬剤部よりの回答を得た時のことです。(右図は回収した調査票)clono_1.jpg

薬剤部はクスリに関する問い合わせ事項が院内で生じた際に、当該製薬企業のコールセンターに問い合わせるのだろうと漠然と思っていました。
ところがこの調査結果では、コールセンターに連絡する場合と担当MRに連絡を取る場合に分かれることがわかりました。
件数ベースではコールセンター経由での問い合わせがMR経由をやや上回りました(55%)が、実際にはコールセンターへの問い合わせ比率が高い施設と、MRへの問い合わせが高い施設に分かれることが判明しました。

コールセンターへ問い合わせるのか、MRへ直接電話するのか?

それでは、この2つのルートの差異はどこから出てくるのでしょうか?理由を記述していただく自由回答欄を設けていましたので、そこを詳細に読み込みますと、大きく言って

1)問い合わせる情報の種類
2)担当MRの訪問頻度プラス実力

がそれを決める要因であることがうかがえました。

1)「問い合わせる情報の種類」に関して言えば、典型的なのは「(近隣など)他院での使用状況」を聞きたい場合です。こうした生の非公式情報はコールセンターでは答えようがありませんから、「電話しても無駄」と薬剤部側が判っていて担当MRに聞くのです。他には適応外使用や、適応拡大の時期などもこうした種類の情報で「正面突破」できないことを薬剤部は知っているのですね。

2)「担当MRの訪問頻度や実力」については、言うまでも無いでしょう。「コールセンターに電話するよりも優先してMRを呼ぶ」と答えた薬剤部の回答理由のうち代表的なものを10ほど挙げてみます。→ここがMRの存在価値を示しているところにもなるでしょう。

  • コールセンターへの問い合わせでは早い回答が得られるが、内容的にインタビューフォームに準じた回答が多く、使用実状に即した回答がもらいにくいのでMRに聞く

  • MRと面識があるため、プラスアルファの情報をえることができるため

  • MRに問い合わせる方が、のちのサービスや情報提供も便利なため

  • 当院担当MRであることから、ある程度当院における状況や情報網などがあるため

  • 緊急性を要すること以外は、MRにも当院の臨床現場のことを知っておいてもらったほうが後々の情報提供につながると考えるので

  • 顔をみたことのない(コールセンターの)人よりも、担当MRのほうが聞きやすいので

  • 担当MRが一番話しが判るから

  • できればMRに質問の回答と資料を持ってきてもらい、その場で資料などをみながら更なる質問等のやり取りができるので、そうしたい

  • 対面でディスカッションしながら情報収集するため、結果としてMR経由が7割以上

  • 担当MRのかたであれば、前後のバックグラウンドや処方医の考え方などが共有できているため


  • この他、(この調査ががん薬物療法治療薬に関する項目であったため)がん専門のMRが配置されているから、などの意見もありましたが、ここには総じて病院薬剤部に信頼されて情報提供を担っている「MRのありたい姿」をみることができます。

    ほぼ全施設から自由回答の記述を頂戴しましたので240ほどの回答がありましたが、もちろんMRのほうがよいとは限らず、施設によっては、

  • MRの来院が不規則で、あてにしにくい

  • MRさんに電話してもすぐに対応できない、連絡が取りにくい

  • 簡単な質問はMRだが、専門的な質問や緊急時にはコールセンター

  • MRによって対応に差があるため

  • (MRの)名刺などがない場合は直接コールセンターに電話している



  • のように、MRがあまり信用されていない、機能していない実態もうかがえます。



    現実としては、TPOで2つのルートの使い分けを行なっているのが多いと思われます。それを示す具体的な声としては



  • いつも情報提供してくれるMRがいる企業であれば、そのMRに直接問い合わせるが、それ以外の企業ではコールセンターに

  • 問い合わせ内容が至急かどうかで問い合わせのルートを決めることが多い
  •  
  • メーカーにより経路は2者択一で使い分けている

  • メーカーによって対応が全然違うため。コールセンターが信用できるか、MRが信用できるか。また対応の早さも各メーカーによって全然異なるため

  • 至急の回答を求める場合とデータを入手したい場合はコールセンターで、それ以外の場合にはMR経由

  • 薬剤部に頻繁に顔を出すメーカーはMRに問い合わせ、めったに来ないメーカーはコールセンターに掛ける


  • などがありました。

    薬剤部の回答が示すもの

    こうしたことから、まず製薬企業がやるべきことは、オンデマンド訪問として典型的な施設からの問い合わせに対するMRの回答のレベルを上げることこそが、まず必要なのではないかと感じました。それがオンデマンド・ビジットをもっと光をあてて強化すべきと思った理由です。
    このオンデマンド・ビジットで相手の期待を上回る「圧倒的な」存在感、効力感を示すことができれば、自然と「お呼び」がかかったり、「ご相談ごと」が増えてきて、顧客とのパートナーシップ形成につながるはずです。 ここで「圧倒的」と書いたのは、少し大げさに言えば、「コールセンターより100倍良い」「競合企業の比ではないくらい優れている」と顧客に思ってもらえることです。

    そのために何が必要なのか?は、各製薬企業がわかっているはずです。たとえ今の時点で明文化されたり抽出されていなくとも、「できているMR」を分析すれば、かならずわかるはずです。そこには、それほどのシークレットもないでしょう。企業特異性があってもわずかです。

    次回は続き、「オンデマンド・ビジットを有効活用するために」等と掲載いたします

    コラム筆者紹介

    講師紹介

    講師イメージ

    講師名 尾上 昌毅
    所属 株式会社マーケティング・インサイツ 代表取締役
    略歴 北海道大学薬学部卒業後、プリストルマイヤーズ、キリンビール(現協和発酵キリン)ノバルティスファーマに勤務。11年のMRを経験後、教育研修室長、プロダクトマネージャー、マーケティング部長、事業戦略部門長などを歴任。2009年より現職でマーケティング研修・コンサルティングを手掛ける。患者さんや医療従事者のインサイトを取り入れた、開発時から発売後までの幅広いマーケティングの可能性を追求している。
    公開セミナー 医薬品業界:プロダクトマネージャー養成講座【基礎編】
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    医療用医薬品のプロダクトライフサイクル(PLC)マネジメント

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