2012年10月18日(木)UP マーケティング

医療用医薬品のプロダクトライフサイクル(PLC)マネジメント
【4.製品ライフサイクルの延長】

方向性

ライフサイクルエクステンションを考える際の方向性は2種類です。今右図のような「製品・顧客」のなかで自社製品が顧客グループAとBをターゲットにしていたとします。


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延長の方向は、違う顧客に使ってもらうか、同じ顧客に競合製品より優先して処方してもらえるよう改良するかです。下方向への矢印が適応拡大などによる現行と異なる顧客セグメントへの拡大です。 製品差別化は、同じ患者セグメントに対して自社品の弱みを改良するか、異なる剤形を追加するものです(右方向への矢印)


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今日ではわずかな「改良」レベルでは医療機関や患者が、現行製品から「改良品」への変更にともなう「交換コスト」を容認しない可能性もあります。 したがって、真に(高いコストでも受け入れるような)医療者や患者にとって意味のあるベネフィットを追求しなくてはなりません。こうした薬剤ニーズは表のようにまとめられます。


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製品の使用状況によって、同じような技術改良であっても患者や医療者に与えるベネフィットは大きく異なります。例えば同じ配合剤でも点眼であれば、経口よりもそのメリットは大きいでしょう(通常は5分間の間隔をあけて点眼するよう指示されているため2剤の点眼はコンプライアンスが低くなりがちです)

製品改良の例

製品改良の主な例を挙げてみましょう。

  • 有効成分の変更:光学異性体(アイソマー)
  • 製剤検討:持続性製剤、細粒、内服用ゼリー、シロップ剤、リポソーム化、OD錠
  • 投与経路の変更:貼付、点眼、坐剤、鼻腔スプレー
  • 包装容器:プレフィルドシリンジ、パッケージ改良
  • 配合剤:経口、点眼、注射
  • 力価追加:高容量製剤、小児用製剤
  • ライフサイクルエクステンションの事例

    これまでで効果的な延長がなされたと思われるケースをいくつか挙げてみます。

  • ケフレックス(カプセル剤)⇒Lケフレックス(持続性顆粒)

  • アダラート:カプセル⇒L錠⇒CR錠



  • これらはいずれも古典的ですが持続性製剤を開発し、投与回数を減らすベネフィットを提供して成功したものです。興味深いのは、ケフレックスのあとのケフラールにおいてもカプセル⇒Lケフラール(持続性顆粒)と同じパターンを繰り返せたことです。経口の持続性製剤化はこの時期のLCMの王道だったといえます。
    そのほか、ザジテンはカプセル剤・シロップ剤に加えて、点眼剤、点鼻剤のラインを追加したことで大きな成功を収めました。点眼や点鼻は新規投与経路であることから再審査期間が付与され、これも後発品参入を遅らせることに貢献したと考えられます。
    口腔内崩壊錠(OD錠)は今盛んに行われていますが、登場した初期のころは今以上に効果的だったと思われます。ガスター錠などはOD錠の発売と同時に積極的な切り替えを行い、後発品からの防御に一定の成果を上げたとされています。
    適応拡大ではなく、一見「適応縮小(最適化)」へ進む方向も模索すべき流と言えます。
    すべての患者に薬剤が奏功しているわけではない。適切な分子マーカー等による投与患者の絞り込み、投与期間の短縮化などは、長期的には薬剤の競争優位を強め、さらに医療経済手的にも評価されるからです。



    ■効能効果の拡大
    抗がん剤ではかなり一般的に効能がん種の追加が経年的におこなわれます。TS−1などはその代表でしょう。


    ■他剤との併用療法
    併用療法で特記すべきは、C型肝炎に対するインターフェロンアルファ2bのイントロンA、ペグイントロンとレベトールの併用を追加した事例でしょう。レベトールの併用相手を自社品(イントロンAかペグイントロン)に限定できたことがLCMに大きく貢献したといえます。
    そのほかにも臨床試験を通じて新たなエビデンスを創出する方向があり、適応が拡大されたり承認事項が変わったりしなくとも、意義のあるデータであればしばしばライフサイクル延長に寄与するのは周知のとおりです。
    その場合に重要なのは、臨床試験の実施そのものではなく、どんなベネフィットを付加できるか、そしてそれを製品メッセージとして訴求してゆけるかです。
    ここは社内外の知恵を結集し、良いタイミングで結果が出る臨床試験を企画・実行できる社内体制を確立している会社が圧倒的に有利になります。


    LCMのクリティカルタイミング

    剤形改良であれ、効能追加であれ、およそ数年単位の所要時間が必要です。したがって、成熟期に入ってから着手したのでは間に合わない場合がきわめて多いのです。
    LCMは臨床開発計画と密接にリンクさせて早い時期から取り組むことが重要ですが、多くの場合にその際の判断基準は競合社の参入時期となります。自社の都合だけで決めていては経済効果の少ないLCM策になってしまう危険性があることを、マーケターは適切に社内に知らせ、準備に着手しなければなりません。競合をにらんだタイムスケジュールが必須です。
    LCMに関する社内の意思決定をサポートするデータのひとつは販売予測です。フォーキャスティングについて、算定根拠の透明性や社内公式化といった基本的なインフラ整備がもし不十分だと、ここでの議論(つまりフォーキャストが信用できる出来ない)に時間を浪費してしまい、製品にとっての機会Windows opportunityを逃してしまいがちです。


    ■競合品の参入に対抗するのであれば効果のあるタイミングで

    *いつ準備を開始するのか?:
    競合の参入などを含む主要イベントをもとフォーキャストのシナリオと合わせて逆算する発想が求められます。
    例えば、2018年に、今の自社抗体医薬と同様の効果を持つ競合社の低分子薬(経口薬)が承認されると想定されたとしましょう。
    競合社が持って行く患者セグメントと患者数を予測し、これに対抗するための選択肢を明らかにします。
    選択肢により準備にかかる年数が異なるので、それを見込んで準備開始するわけです。

    【留意点】
    リスクやメリットを明確に示せないと、社内の合意が取れない、またはゴーサインが出るまでに長時間を要する危険性がある。説得のために何らかの市場調査が必要であれば、その所要期間も加えて見込む必要がある。
    さらに、たとえば「新剤形」によって競合品を迎え撃とうという場合には、競合品の発売時には、現行自社製品の大部分が「新剤形」に置き換わっていることが必要です。この置き換えに要する期間(施設での新剤形採用時間)も見込んだ開始タイミングが必要です。


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    実際には、後発品を含めて、競合品が出るのとほぼ同じタイミングで「新剤形」を出して対抗するという、正面突破策を取る企業が依然として多いのは、社内の意思決定の遅れという問題の深刻さを露呈しています。

    では、こうしたことをマーケターが先を見越して考えられるでしょうか?
    新製品を担当するマーケターは、当面の製品発売の準備に忙しく、LCMまでを考えている余裕がないのが実態です。したがって会社としての組織的対応を行わなければこうした早い(適切な)タイミングでのLCM策着手は難しいでしょう。そういう意味で、最近ライフサイクルマネジメントを専任で担当する部署が出来ているのは、今の動向をとらえたものとみることができます。

    ライフサイクルエクステンションは関心が高い領域であるものの、ときに社内の製剤検討チームだけがこれを全面で請け負うなど、視野狭窄に陥りがちです。製剤改良だけでなく、包括的な製品改良に加え、データジェネレーションをどう仕組んでゆくかまでも検討する全社的対応が望まれます。


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    LCMは本質的に臨床開発のマネジメントと類似性が高いものです。対象製品が企業にとっての主力品であるならば、どれか単一のLCM策に全社の命運をかけるのではなく、ポートフォリオの考え方を適用して、資源配分を考えつつ複数のLCM策を走らせなければ、失敗したときに失うものがあまりに大きいことをマーケターは声を大にして社内に伝えなくてはなりません。
    「新製品が出ないのでLCM」という後ろ向きの発想でなく、顧客適合を高め競争力を増す戦略としてLCMの実務を進めてゆく真のマーケティング力がますます求められています。


    コラム筆者紹介

    講師紹介

    講師イメージ

    講師名 尾上 昌毅
    所属 株式会社マーケティング・インサイツ 代表取締役
    略歴 北海道大学薬学部卒業後、プリストルマイヤーズ、キリンビール(現協和発酵キリン)ノバルティスファーマに勤務。11年のMRを経験後、教育研修室長、プロダクトマネージャー、マーケティング部長、事業戦略部門長などを歴任。2009年より現職でマーケティング研修・コンサルティングを手掛ける。患者さんや医療従事者のインサイトを取り入れた、開発時から発売後までの幅広いマーケティングの可能性を追求している。
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