2011年7月20日(水)UP 人材育成

【連載 営業の生産性向上を考える 第6回最終回】生産性指標と財務指標の違い

Q1.これまでお話いただいた生産性の指標といわゆる財務指標の違いを教えて下さい

あるクライアント先で、「御社で使用している生産性指標の分解式を、"例えば・・・" で結構なので教えてください」、と質問させていただきました。そこで出てきた回答は、「例えば、で言うと、売上高と営業利益で比較した売上高営業利益率でしょうか」。

この回答をみなさんは正しいと思うでしょうか? 答えは間違いです。

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この図を見ながら聞いて下さい。「売上高営業利益率」とは、どちらも(=売上高・営業利益)結果数値であり、このような指標を財務指標(もしくは、結果指標)と呼びます。

先ほどの私の質問は「生産性指標」であり「財務指標」を問うているのではありません。では、生産性指標とは何か? そもそも生産性とは「経営産出成果/経営投入資源」と分解できます。工場経営(対象=ブルーカラー)で言うならば「経営産出成果」とは「生産高」であり、「経営投入資源」とは「原価(=材料費+労務費+経費)」です。

企業が、なぜ生産性指標で管理を進めているのか? 生産性指標は進捗管理が可能であるからです。一方、財務指標とは結果数値の比較でありますから、その財務指標を期待値に到達させるための対策は、残念ながら結果数値からは導けないのです。

このように考えてみると、「財務指標=結果指標」であり、「生産性指標=先行指標」と理解しても間違いではありません。企業が市場から評価されるのは「財務指標」であるものの、それをそのまま内部管理指標として使用したとしても、企業内部のマネジメントにダイレクトに適しているかと言えば疑問が残ります。もちろん、社外の指標が社内でも共通に活用できることは、全ステークホルダーと共通の言語を持っていることになるので素晴らしいように思えますが、重要なことは「財務指標」の数値が期待値に到達しているかどうかであり、共有することは手段の一つに過ぎません。

例えば、管理ツールとしてBSC(balanced scorecard)の導入が日本市場では上手くいかなったイメージがありますが、答えは、BSCの管理項目は「結果指標」で管理されており、「先行指標」で管理されていないところにあると私は考えています。社内マネジメントに落とし込むには、財務指標管理ではなく、そこに通じる先行指標の一つである「生産性指標」で管理することが望ましいことを証明した良い事例の一つと言えるでしょう。

P, F, ドラッカーも、著書「MANEGEMENT Tasks, Responsibility, Practices」の中で、「同一企業のさまざまな事業ユニット、あるいは、多様な企業の経営陣を比較する尺度としては、生産性が最もふさわしい。というのも、生産性には企業の努力がすべて映し出される一方、企業のコントロール外の要因は排除されるのだ。生産性こそ、経営陣にとって何よりの腕の見せ所なのである」と述べています。また、日本資本主義の父であり渋沢栄一も「結末より過程が大切だ」というメッセージを強く残していますね。

外部要因の影響を反映している「財務指標=結果指標」の不確実性を抑制するためには、内部の経営努力がダイレクトに反映される「生産性指標=先行指標」での管理を蔑にしてはいけないのです。

Q2.営業の生産性を上げるには"時間"を優良資産に変えていくことがポイントということでしょうか

そうなんです。
ここで労務費及び人件費と在庫についてお話してみたいと思います。
経済環境が不景気になると、経営者がまず対策として実施するのが「現状在庫の回転率を高めること(=主に製造業)」です。つまり、日が経つにつれ、現在の在庫が罪庫になってしまうことを防ぐのが目的ですね。


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それでも業績の回復が見込めない時は労務費、及び、人件費の低減にメスを入れだす、そもそも不景気であることから在庫回転率が向上しない、ということは売上が伸びないことを意味しており、そんな中で営業利益を確保しようとするならば、コストを低減するしかない、そのコストにおいて一番大きく影響する費用項目が「人にかかるコスト(=労務費及び人件費)」です。おそらく、どの経営者に問うてもこの二つ(人にかかるコスト及び在庫)のことが頭の片隅から消えることはないでしょう。

ここで、コスト低減対象を労務費及び人件費に焦点を当てましたが、もちろん、コスト低減にはその他にも費用項目はあります。例えば、広告宣伝費等も一つのコスト低減対象でしょう。しかし、これら「広告宣伝費」のコスト削減は、経営者としての意思決定次第であるからこそ、決めの問題として解決することができます。

しかし、労務費及び人件費はそう簡単には低減できません。なぜなら、人の雇用に関する問題と大きく関係するからです。

だからこそ正しく理解しておきたこととして、「労務費及び人件費」の「額」とは、「労働時間」と言い換えられる、大雑把に言うと企業は社員一人ひとりの「時間」という経営投入資源を前提にその周りに付加する「経験、キャリア、知識レベル」も一緒に購入しているのです。

ただ、「労働時間=経営産出成果」と言える業種と、全くそうとは言えない業種があり、それらを区分したのが、ブルーカラー、ホワイトカラー、そして、ナレッジワーカーの分類です。

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定型業務比率の高い業務に従事しているブルーカラーの8h労働後の経営産出成果(ここでは、生産高とする)は、ほぼ一定であり、対応する人材が異なることによって大きくばらつくことはないでしょう。しかし、ブルーカラーと比較して定型業務比率が少ないナレッジワーカーの8h労働後の経営産出成果は、従事する人材によって異なり、時によっては大きくばらついていることも少なくない。つまり、8h労働でも8hの価値が大きく異なってくることが予想されます。

この世の中で、唯一お金で購入できないものが「時間」であす。その他の経営投入資源は買おうと思えば購入できますね。「モノ」はお金で購入できることはもちろんのこと、「お金」は稼げばどうにかなる。しかし、「時間」は購入できない。「モノ」や「お金」は代替が効くが、「時間」は代替が効かない。ましてや、その「時間」を「一人一人」の優良資産として管理したならば、尚更代替は存在しない。なぜでしょうか?

Toyota Production System(トヨタ生産方式)で有名な「無駄取り」ですが、一般的な理解として、業務を効率化してキャッシュフローの改善に繋げるように捉えられていますが、その意図は違います。

理解すべき重要な概念としては、「様々な業務に従事する中で、無駄なことは多かれ少なかれ存在するものの、その無駄な業務に一人ひとりの貴重な経営投入資源の一つである時間を投入させているということは、その人の人生をかすめ取っていることである(参考;ユニチャームのSAPS経営の原点、二神軍平著、頁85)」ということです。だから、トヨタでは改善活動を積極的に主体的に進める風土が根付いているのです。改善を推進することは、飛躍的に表現すると、自分たちの生活水準が向上することに繋がることを理解している、と言っても過言ではないでしょう。

決して、「改善活動=自分の業務が削減される」というNegativeな発想など生まれてこない。

生産性の分母(経営投入資源)が時間である以上、この生産性指標管理こそが、財務指標管理に繋がることがイメージできたのではないでしょうか。
敢えて表現を変えると、ホワイトカラーやナレッジワーカーは「人件費=経験、キャリア、知識レベル」と表現すると理解はできるかもしれません。また、期待される成果が「知恵やアイデア」である以上、この表現は正しいようにも見える。
しかし、重要なことは、「経験、キャリア、知識レベル」が成果に対して測定できるかどうか? でしょう。ラインワーカーにおいては定型業務であるからこそ「経営産出成果=時間=労務費」と表現しても、時間と成果の関係を統計的にも測定できるからこそ何も間違いはありません。それがホワイトカラーやナレッジワーカーでは、経験、キャリア、知識レベルと成果の確実性がラインワーカーと比較してかなり低くなります。理由は、「非定型業務」が含まれているからです。

だから、ホワイトカラーやナレッジワーカーに対しては、「経営産出成果=経験、キャリア、知識レベル=人件費」では、測定できないことになる。敢えてこの表現に加筆すると「経営産出成果=時間内で期待される成果(=経験、キャリア、知識レベルを含む)=人件費」とするべきでしょう。測定できないものはマネジメントできない、です。

お気づきのように、どんな職種であっても「時間」という経営投入資源こそが測定対象として可能であることを証明しています。決して、「経験、キャリア、知識レベル」という経営投入資源が不要と言っているのではありません。むしろ、「時間内で、あなたの経験、キャリア、知識レベルをフル活用して期待される成果を創出する」ことにより、その人の価値が決められる対象が「ホワイトカラーやナレッジワーカー」である、と理解する方が正しいのです。

このように見ていくと、付加価値業務が重宝されると同時に、付加価値業務を定義できないまま、とにかく(一生懸命が免罪符になりつつある状態)業務に従事している、ということは、自分の職を失うことにもなりかねないという危機感は持っておきたいものです。

だから、付加価値を創出させる業務の生産性を向上させるマネジメントが、これからの知識社会を生き抜く、ナレッジワーカーには期待されているのであり、そこを測定できる技術がMBM(monitoring based management)です。

Q3.では何を成果目標としてマネジメントをしていけばよろしいのでしょうか

ナレッジワーカーの経営産出成果の定義が曖昧であることから、一時期、ナレッジワーカー(一部、ホワイトカラーを含む)の管理が、結果指標管理に流れた時代があったことも事実です。その代表が「成果主義」でしょう。しかし、「成果主義の失敗」を認めた富士通が2001年には日常の業務努力も評価項目に加えたように、その後はチームワークも評価に値する、と言った動きが相次いだことは既知の通りです。

では、ナレッジワーカーにとっての「経営産出成果」とは何か? ブルーカラーの場合はイメージできたがナレッジワーカーの場合はこのイメージが難しい、という人も少なくないでしょう。

結論を先に言うと、そもそも「非定型業務」に携わっている人材だからこそ、「経営産出成果」はさまざま存在している、としか言えない、つまり「定義しないと決まらない」のが実際です。

では、何を指針として決めるのか? 現場での運用を考慮すると、「そこに付加価値が含まれているものなのかどうか」で判断することが望ましいです。
(画像をクリックすると大きい図をご覧いただけます)


ここで「付加価値」を定義しておきましょう。「付加価値」とは、「あなたの経験、キャリア、知識レベルから導き出される、知恵やアイデア」とします。決して「既存の知識や情報」ではありません。ナレッジワーカーは、「ナレッジ」というインプットを使って「知恵やアイデア」をアウトプットとして創出することが期待されており、だからこそ「入れるのが知識で、出すのも知識」では、知識を振り回しているに過ぎず、そこには付加価値は全く含まれません。

この図で解説しましょう。これはナレッジワーカーである営業人材の一つの案件に対する業務内容を列挙したものです。業務内容を列挙すると大きく二つに分類することができます。効率性を追求するべき業務なのか? 効果性を追求するべき業務なのか? 文字通り、効率性を追求する業務に付加価値は含まれない、付加価値が含まれるのは効果性を追求する業務です。

そこで一般的に考えられる内容として、「商談時間」には付加価値が含まれているだろう、という見解です。前回でも述べましたが、商談することが目的(例:商談経験すること)ならばそのようなやり取りは素晴らしい経験になるでしょうが、受注することが目的であるならば、商談を経験していては意味がありません。

つまり、商談時間内で起こりうるであろう状況や顧客からの想定質問などを事前に準備する(=思考する)ことこそに本来、付加価値が含まれているはずです。

そうであるならば、この「思考成果」に対する生産性を向上することが、社内の内部努力と言い切っても間違いではないでしょう。

この業務(=思考成果)に対する生産性が向上すれば、管理者として、もしくは、当事者として、「管理の不確実性が高いであろう商談」に対する確実性が高くなることが予想できることでしょう。

Q4.つまり、処理的業務だけに注目していては、生産性向上は望めないということですね。

そうです。
企業経営の肝である「キャッシュ」は、どのような業務から生まれるのでしょうか。例えば、思考錯誤の末に引き合いから受注までこぎつけたとしましょう。しかし、受注しただけでは何もキャッシュが生まれていません。その後、契約書の策定及び締結、本格的な財(もしくはサービス)の提供、請求書の発行、請求確認という具合に、後方に位置するであろう処理的業務までシッカリ進めた上で初めてキャッシュがフローします。

つまり、今一度理解しておきたいこととして、どれだけ経済成長しようが、処理的業務がゼロになることはない、という事実です。しかし、人間は機械ではない、機械ではないからこそ、同じ作業の繰り返しや単純作業は、人間としての秩序を失わす場合があります。所謂、「イライラする」という状態がその秩序を失っている状態です。人間は動物である以上、「@=食べる×寝る×動く×考える」のバランスが崩れると、秩序が乱れます。

従って、効率性を追求するべき処理的業務は、できるだけ人間の手から離れさせるべきであり、無くても困らない業務を削除したうえで、機械化やIT化なども貢献していることは言うまでもありません。

ここで留意しておきたいことは、「機械化やIT化」には莫大な初期投資がかかっているという事実です。「機械化やIT化」の結果、「労働生産性が向上し、そして収益性が向上している」ことが投資の条件であることを決して忘れてはならないのです。しかし、実態として「労働生産性は向上したものの、収益性は悪化している」、ことや「労働生産性も収益性も悪化してしまった」、という環境は生まれていないでしょうか? 原因は全て「目的・貢献度生産性向上業務」の存在、もしくは、定義の曖昧さです。

企業とは、売上だけで判断されるのではなく、また、営業利益だけで判断されるのでもなく、収益性で判断されることが真の評価としては正しいのです。

収益性とは、「@=利益率×資本回転率」であり、「利益率は、売上と利益の割合」であり、「資本回転率は、売上と合計投入資本の割合」です。

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売上は向上させることが望ましい、コストは低減させることが望ましい、投入資本は少ないことが望ましい。可能であるなら、少ない投入で多くの成果を導きたいものです。しかし、そこを可能にするかどうかは、日々の社内の内部努力に頼るところが大きい、つまり、生産性向上です。もっと具体的に言うと、定義された経営産出成果に対する経営投入資源(=時間)の確実な管理です。決して、財務指標に答えがあるのではありません。

Q5.今後、日本の営業組織はどこへ向っていけばいいのでしょうか

「ホワイトカラー・エグゼンプション」
この言葉が世間を席巻したのは2007年当時のことです。残念ながら、当時の安部首相はこの法案を見送りましたね。理由は「残業代ゼロ法案」と民主党にレッテルを貼られたこと及び企業が「人件費削減手段」と見る動きがあったことです。

人件費というテーマで企業内を見渡してみると、今後、人件費の問題を対象とする主な人材は、ブルーカラーではなく、ホワイトカラーでもなく、ナレッジワーカーに移行していくことは容易に予想できます。理由は、ブルーカラーやホワイトカラーの業務は、人件費競争の視点から新興国へ吸収され、先進国での業務は付加価値を提供することだけに絞られるからです。

そうであるからこそ、このホワイトカラー・エグゼンプション法案を、収入を一つの軸で検討するならば、低所得者ではなく年収1,000万以上(仮)の人材のみを対象とする、など工夫しなければならないでしょう。

経団連会長であった御手洗氏(当時)も、「ホワイトカラー・エグゼンプションの対象者は全社員ではない」という言葉に、政府は耳を傾けなかったのはなぜか? Visionのない政治家の私利私欲が先走った結果、法案が見送られたならば、この日本経済をどこまで真剣に考えていたのか、を疑いたくなります。

なぜ、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入を強く推薦するかと言うと、先にも述べたように、先進国における今後は、労働集約的業務への従事ではなく、知的作業への従事が期待されるからです。このような業種では一か所に集まって仕事に従事する必要はなく、ある意味、働く場所は柔軟であっても構わない。2007年当時と比較してクラウドがもっと一般化すれば、知的生産性を向上させる就労条件はもっと整う。必然的に、「賃金は労働時間の対価」ではなく、「労働時間が長いことではなく成果による評価・処遇」を考えるべきなのです。

成果主義を前面に打ち出して付加価値を生む優秀な人材を多く獲得している外国の企業と、未だに、日本型雇用慣行を守りたいと考えている日本の企業との間に競争力格差が俄然大きく開いていることを認識しておきたい。その為の対策として日本における成果主義は失敗したと認めざるをえない。では、どうするか? 「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」を考えればいいのではないでしょうか? 重要なことは、企業の競争力を支える優秀な人材という経営投入資源をグローバルで確保するために、企業経営者が本気で改革をしようとしているのか? ということです。その点、楽天やユニクロにおいては、これからの日本企業のグローバル企業としてのあり方を研究していきたいものです。


最後に
短期間でしたがこの対談記事にお付き合いしてくださいました読者の皆さまには深くお礼申し上げます。ありがとうございました。これからの皆さまの会社、及び、皆さま自身のご活躍を祈念致します。

コラム筆者紹介

講師紹介

講師イメージ

講師名 坂本 裕司
所属 株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティ 代表取締役
略歴 生産性向上マネジメント・コンサルティングの第一人者 。 1996年鐘紡株式会社(現;クラシエHD株式会社)入社。ノッティンガム大学経営大学院(UK)にてMBA修了。ISPI(International Society for Performance Improvement:米国本部:ナレッジワーカー・ホワイトカラー生産性向上研究団体)の日本支部プレジデント(2003〜2011)。独立系マネジメント・コンサルティング会社取締役を経て、株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティを設立。 主な著書:『戦略的営業利益向上マネジメント』、『考える営業』 、『ホワイトカラーの生産性を飛躍的に高めるマネジメント』 (すべて産業能率大学出版部)
セミナー “考える営業組織”のつくり方(7/13開催)
コラム 【連載】 営業の生産性向上を考える



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