2011年6月24日(金)UP 人材育成・組織力強化人材育成

【連載 営業の生産性向上を考える 第5回】測定できないものはマネジメントできない

Q1.前回でマネジメントの大切さを痛切に感じましたが、どういう考えでその仕組みをつくればいいのでしょうか

そこが皆さんの一番の興味ではないかと思います。つまり、ナレッジワーカーである営業人材の業務価値を数値に落とすにはどうすればよいか、ということですね。

ナレッジワーカーは、ホワイトカラーやブルーカラーとは異なり、定型業務の比率が少ない、これは、そのまま「測定しにくい」とも言えます。だからと言って「測定できない」と断言してしまうと、それは「統制できない」と言い切ってしまうことに繋がります。必然的に「結果(売上)判断」に陥り、その過程における対策を導くことができなくなります。

ナレッジワーカーの業務実態において、非定型業務がウェートを占めるからといって測定できないことはありません。例えば、ホワイトカラーの測定対象業務の粗さを仮に「8h/日の内、85%を管理する」とするならば、ナレッジワーカーの測定対象業務の粗さを「8h/日の内、50%を管理する」という具合にもっと粗くすれば良いだけなのです。

しかし、ここで注意しておきたいのは、粗さを変更していくと、使用する測定技術にも限界が生じるので、そのケースにあった測定技術を使用しなければなりません。まず、一般的にナレッジワーカーの業務価値を大雑把に把握する測定技術としてランチェスターの法則を応用した技術をご紹介しましょう。

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この図は、ランチェスターの法則(第2法則;成果=質×量2)に基づいて、「目的・貢献度生産性業務=質の効果性を追求する業務(以下、T型業務)」、及び、「T型以外の業務」に分けた場合の、最高のパフォーマンスを導くための時間配分を数値で示したものです。

結論は、「T型:T型以外=2.5h:5.5h」であり成果指数は「75.6」です。これは、就業時間(8h/日)の内、2.5hをT型業務に投入することがナレッジワーカーには期待されている、と理解して間違いありません。但し、実際に運用する場合においては、「2.5h/日」で管理するのではなく、「12.5h(=2.5h×5日)/週」で管理し、一日平均に換算すると「2.5h/日」になっていると理解することが実際でしょう。もしくは、「50h(=12.5h×4週)/月」でも構いません。「日⇒週⇒月年」という具合に、粗くすればするほど、実感のわく測定が可能になるでしょう。

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「T型業務=2.5h/日」というのは数値から弾き出されたものの、上記の各社の事例を比較してもほぼ、同じ数値設定されていることが検証できます。

ナレッジワーカーにはT型業務を優先した上で、他の業務とのバランスを考慮しているのであるからこそ、どちらかの業務だけに偏っているのでは期待される成果に到達できないでしょう。

対策として、業務の計画性に注意を払うことであり、付加価値を生まない業務の削除を検討することです。

このように、ナレッジワーカーである営業人材に対しては、最初から細かく見るのではなく、まずは業務を大雑把に見ればよいのです。但し、重要なことは「T型業務」を中心に事実を見ることです。それには理由があります。

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この図はナレッジワーカーである営業を対象にした分解図です。ナレッジワーカーであるからこそ付加価値を生む業務(=T型業務)に計画的に時間を投入する必要があり、つまり、「効果性を向上させることを目的に、効率性を向上させる」から、業務全体が引き締まるのであって、対象がナレッジワーカーであるにも関わらず「効率性を向上させる」ことを目的に改革を進めてしまうと、効率性の経営余力(=時間)を何に再投資していいのかわからないので、結果、非効率になっている場合があります。

例えば、ある営業現場において「システムに情報を入力することが一つの仕事になっている」という場面に遭遇することがありますが、これはまさに業務の「効率性を向上させることが目的」に行った業務改革の悪い事例と言えるでしょう。

経営サイドとしては、「現場の業務の効率性を図れば、もっと、良い仕事をしてくれるに違いない」と思っていたものの、その思い通りにならない理由は、「T型業務(=目的・貢献度生産性向上業務)の設定」にあります。

Q2.業務を細分化して測定するメリットはどういうものでしょうか


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ワークライフバランスという言葉があります。文字通り、「CorporateとPrivateの両立を図ろう」という内容です。

そう、バランスです。

そのためにも営業人材として、一日の業務におけるコアな部分は何か? を十分理解しておきたいところです。それは、「業務内における、付加価値業務」であり、これを「目的・貢献度生産性業務(=T型業務)」と呼んでいます。従って、その業務に投入する時間が2.5時間であったとしても、その分母が「8h」をベースに投入している場合と「10h」をベースに投入している場合では、価値が異なりますね。

これらの数値を日々追いかけていると、時間に対する意識が高まってきます。結果、計画性が伴った行動と、業務に対する集中力、及び、現状に対する問題意識が高まります。

数値で測定できるから、(セルフ)マネジメント(=管理)できるのです。

ランチェスターの法則では、日々の動きを大雑把に掴み取ることができました。傾向を見る上ではこれで良いでしょう。しかし、実際の現場において改良、改善、そして革新させていくためには、更に、詳しく測定する必要が出てきます。

ここからは、ナレッジワーカー各個人の行動をマネジメントすることにより、確実に成果に繋げていきたい人だけに聞いていただきたいです。


(※クリックすると大きい画像がご覧いただけます)
この図は、先ほどのランチェスターの法則から更に詳しく分解したものです。ランチェスターの法則では、「T型・T型業務以外」の時間だけを拾い上げましたが、ここでは、

★「T型業務」を
   (ア)本来・計画
   (イ)本来・非計画
   (ウ)非本来・計画
   (エ)非本来・非計画


★「T型業務以外」を
  �@S型(処理的業務)の基本機能業務
   (ア)本来・計画
   (イ)本来・非計画
   (ウ)非本来・計画
   (エ)非本来・非計画

 �AS型(処理的業務)の補助機能業務
   (ア)本来・計画
   (イ)本来・非計画
   (ウ)非本来・計画
   (エ)非本来・非計画

 �Bその他
   (ア)本来・計画
   (イ)本来・非計画
   (ウ)非本来・計画
   (エ)非本来・非計画

に分けて、少し細かく分解してみましょう。

図は、ある営業組織全体の事例ですが、私は素晴らしい事例と思っています。何しろ、全体でT型業務が約30%に投入できているので。

しかし、実際の現場においては、「T型業務」であっても「本来業務ではないものの、顧客に依頼されて断れずに対応している」ことは、ある意味振り回されている状態であり、T型業務の価値が異なってきます。

その上で、この組織で気になったことは、全体のT型業務に占めるウェートだけを見ると素晴らしい組織のように見えるものの、この組織の成果に直接影響しないであろう業務をまとめてみると、全体の「47%」もウェートが占められていた、ということです。

これを、この組織の総額人件費(例;650万×13名=8,450万)で計算すると、機会利益は「3,972万(=8,450万×47%)」です。この経営資源(時間=人件費)を、あなたなら何に再投資したいと考えるでしょうか? このような機会利益を無視したまま、自社の収益性が悪い! と断言してしまうのは、いかがでしょうか。

Q3.では、具体的にどう業務をマネジメントしていけばいいのでしょうか

そうですね。例を挙げて考えて見ましょう。

(パターン�@)
 会社の会議は往々にして終了時間を厳守できない場合が多いものです。一方で、会議とは結論を出すところであるから、最後には何かしらのOutputが決められているはずです。

こんなダラダラ会議では、おそらく上層部はイライラしているに違いないでしょう。そんな時に、「もっと会議の効率性を重視しろ」と言われても、実は、対策にはなっていないのです。

そこで考え直してみたいが、会議にはそもそも目的があります。参加することに意義はありません。会議にはテーマがあり、参加者が決まっており、会議時間が決まっており、など、条件が整っていなければならない、言い換えると、決められた時間内で、その日の参加者全員で、決められたテーマに対して一つの結論を出すこと、です。

つまり、会議そのものに付加価値は存在しない、この会議に出席する各々の準備時間に付加価値が含まれているのです。この業務こそが図にある「目的・貢献度生産性業務=T型業務」です。

このような準備時間を30分でも確保して全員が会議に臨んだ方が、会議に足を運んでいきなり参加し、そこで、いろいろと意見を言い合うより、よっぽど効率的に進むものです。なぜなら、仮説を準備しているので対策の内容に付加価値が伴っているからです。

この「準備時間」に対する生産性を向上することが、社内の内部努力と言い切っても過言ではありません。

(パターン�A)

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この図は、ナレッジワーカーである営業人材の一つの案件に対する業務内容を列挙したものです。

ナレッジワーカーに期待されているのは、物事を上手く処理すること以上に、知恵やアイデアにおける付加価値の創出である。左図に「付加価値業務」が含まれていると思うでしょうか? ある人は「商談時間内での予期せぬやり取りこそ、付加価値業務が生まれる」と言う人もいるでしょう。もちろん、そこを否定するつもりはありません。

しかし、商談することが目的(例;商談経験すること)ならばそのようなやり取りは素晴らしい経験になるでしょうが、受注することが目的であるならば、商談を経験しているレベルでは意味がありません。

つまり、商談時間内で起こりうるであろう様々な状況や顧客からの想定質問などを事前に準備する(=思考する)ことこそに本来付加価値が含まれているはずです。

会議を例にとっても同様なことが言えます。一般的には「いろいろな"議"論を"会"わせるからこそ(=会議)、気づきもあり斬新なアイデアが生まれる」とは言うものの、仮説を持っていない人間同士がいくら議論しても、斬新なアイデアなど生まれるはずがない。むしろ、会議に出席する前の事前準備(仮説をいくつ用意できるか?)にこそ付加価値が含まれているはずです。

そうであるならば、この「思考成果」に対する生産性を向上することが、社内の内部努力と言えるのではないでしょうか。

Q4."内部努力"という言葉がすごく気になるのですが、どう意味で使われていますか

いい質問をしていただきました。私は、生産性の向上とは社内の内部努力の結晶だと思っています。

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活動形態で一日の時間を分類すると上記になります。



ここで注意を払っていただきたいのが、この4項目は全て「独自時間」を中心に回っている、ということであります。



例えば、打ち合わせ(対人時間)等は、そもそも独自時間内で創造された仮説を検証するために開催されるものであり、メール(対物時間)作業等も、打ち合わせ開始前の調整業務や、終了後の確認作業等で発生するものであり、例えば、取引先へ打ち合わせに行くのは、対人時間を実現するために必要になる作業、と言えるでしょう。



このように「独自時間」を中心に他の時間が回っている。

すると、何を中心に管理すれば良いのか? が見えてきます。それは「独自時間」であり、ここには主に「目的・貢献度生産性向上業務=T型業務」が多く含まれています。



従って、ナレッジワーカーである営業人材の生産性向上とは、業務全ての生産性向上ではなく(=対人時間、対物時間、移動時間等の細かい管理ではなく)、独自時間に含まれるであろう「目的・貢献度生産性向上業務(対象=T型業務)」、及び「処理量生産性向上業務(対象=S型業務)」のみの生産性を向上させれば、他はおのずと付いてくるのです。



生産性の向上とは社内の内部努力の結果であるからこそ、不確実性の高い業務よりも確実性の高い業務(独自時間)を確実に向上させることを優先しなければなりません。また、ナレッジワーカーは付加価値を生むことが期待されており、幸いにもその業務とは「独自時間」にしか含まれていない、という事です。

Q6.具他的な測定技術について教えていただけますか

はい。ここではMBM(monitoring based management)という生産性を向上させる測定技術をご紹介します。

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MBM(monitoring based management)とは、文字通り、「監査をベースにしたマネジメント」と解釈できます。監査とは、「監督し検査すること」であり、進捗過程が見えて、それを元に統制することと言えます。つまり、MBMは「数値」という「客観性」のある表現で、信憑性を高め、それを共通言語にマネジメントを進めていくことができるのです。



このMBMは、TPI(total performance index=生産性指数)で表現されますが、このTPIは、二つの指標によって構成されています。



�@TPM=total productivity monitoring(目的・貢献度生産性指標=T型業務)



�AOPM=operational productivity monitoring(業務処理量生産性指標=S型業務)





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これは一つの組織でTPIのバラツキを見たものです。実は、ここから分かったことは、High skillの営業人材の方が全体的な平均値は高かったものの、その分散を見ると、最上位だけでなく最下位にも位置していたことです。つまり、バラツキが大きいことを意味している。



こんな状態では「管理=マネジメント」できているとは到底言えません。むしろ、Low skillの人材の方が確実性が高い。



結論から言うと、この組織におけるHigh skillの人材は、所謂「経験だけ」に頼っているスタイルで仕事を進めているのです。従って、できる人材はできるが、できない人材はできない、という事です。そこには「努力」が存在しないから。


一般的に、比較する際に使用する代表値として、「平均値」が使われますが、平均値はデータの中心を示しているだけで、その散らばり度合い(バラツキ)を表示していません。



バラツキが見れないままでは、本当にどこにメスを入れるべきなのか? 対象がピンボケしてしまいます。TPIでは、このように標準偏差で見ながら、一人ひとりの生産性指数を向上させていくことができます。

Q7.ではどうすれば営業の生産性を向上させることができるのでしょうか

そうですね。高い行動目標を達成するために、全社で行動バランスの比較することですね。





この図にあるように、TPIは、TPM、及び、OPMという指標をPBO(productivity by objectives)という技術によって指数化しております。指数化するメリットとしては、全く異なる業種間であっても、それを「生産性指数」という一つの土俵の上で比較できることです。



つまり、経営の社内の内部努力が全社を通して俯瞰できるということです。経営会議では主に、この図にある指数の変化を軸に、「高い行動目標」の達成を考察していきます。



コラム筆者紹介

講師紹介

講師イメージ

講師名 坂本 裕司
所属 株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティ 代表取締役
略歴 生産性向上マネジメント・コンサルティングの第一人者 。 1996年鐘紡株式会社(現;クラシエHD株式会社)入社。ノッティンガム大学経営大学院(UK)にてMBA修了。ISPI(International Society for Performance Improvement:米国本部:ナレッジワーカー・ホワイトカラー生産性向上研究団体)の日本支部プレジデント(2003〜2011)。独立系マネジメント・コンサルティング会社取締役を経て、株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティを設立。 主な著書:『戦略的営業利益向上マネジメント』、『考える営業』 、『ホワイトカラーの生産性を飛躍的に高めるマネジメント』 (すべて産業能率大学出版部)
セミナー “考える営業組織”のつくり方(7/13開催)
コラム 【連載】 営業の生産性向上を考える



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