2011年6月27日(月)UP マーケティング商品開発・ブランド戦略

【連載 マーケティング活動にも収益志向を!】 第5回情報システムは目的を満たしていればそれでよし

情報システム構築のポイントは「十分性」と「情報開示」にある。

今回は収益を志向するマーケティング活動に必要な情報システムとはどういうものであるべきなのかについてお話を致します。第3回目のコラムにてお話ししました通り、「収益志向マーケティング・マネジメント」の5つの強化ポイントについてのアンケートでは、その5つのうちの1つである「情報システム」は各企業とも比較的強化が進んでいるという結果になりました。ヒアリングの結果でも、「情報システム」はかなりの投資金額をかけて整備をしてきたという企業が多いようです。しかし、一方では機能が多すぎて使いきれていない、データは簡単に取り出せるがそれをマネジメントに活かす手法が明確でないとの声も多く聞かれました。

私は、情報システムの強化を行うポイントは、「十分性」と「情報開示」であると考えています。「十分性」については、目的を満たしておればそれでよしとして、あれもこれも機能を盛り込んでオーバースペックになったり、データの入力や取出しが面倒になったりすることがないようにすること。「情報開示」については、必要な人間がストレスなくデータを取り出せること、理想的には決められたタイミングで関係者に自動的にデータが送られてくる仕組みを作り、担当者が自ら見に行かなくとも常にアップトゥデートな状態を作るといったことが重要であると考えています。

これらについて具体的にお話を進めて参ります。

損益管理グループは戦略を検討する単位と一致させる。

では、マーケティング部門、販売部門に必要な財務データとは具体的にどういったものになるのでしょうか?それは、企業が戦略を検討する単位と一致した形で、すなわち商品グループ別、さらにそれを束ねたブランド別の損益計算書であると考えます。事業本部や事業部単位では括りが大きすぎてどこに改善ポイントがあるのか分かりにくいですし、かといって個々の商品別損益までは間接費の配賦作業が煩雑になることから、システムの作りこみ以上に運用が難しいのが現状です。注意して頂きたいのは、売上と利益の結果だけでなく損益計算書として開示されなければ、担当者の思考を促すことは不可能であるということです。

また、プロフィットセンターを製造部門とし、マーケティング部門や販売部門はいくつかの製造部門(または事業部門)の製品を扱う共通部門となっていて、関連する費用は各製造部門単位に配賦されて製造部門の組織にあわせた部門損益計算書を作っている企業もあるのではないかと推測します。その場合でも、その部門損益計算書を調整して商品グループ別、ブランド別の損益計算書に作り変えてあげることが最低限必要であると私は考えています。

その理由は、マーケティング(販売)活動における収益志向を強化するということは、すなわち顧客や競合をより意識した収益管理を行うことであり、製造部門の組織にあわせた損益管理は製造部門内の課題を炙り出すには良いのかしれませんが、一方でプロダクトミックスの見直しや価格戦略による売上総利益の最大化、そして営業利益への影響が極めて大きい販売費のコントロールという点では不十分であるためです。もはや、効率よく生産できていることは企業が生き延びるための最低条件となっていて、さらにその上を目指さなければならない時代が来ているのです。

情報システム構築は完璧を求めると失敗する。

そして、その損益計算書から売上総利益(率)とそれに対する販売費の割合が分かればマネジメントの目的を達成する条件が整うわけですが、部門内、部門間のコミュニケーションを促進するためには、費目毎の内訳がすぐに確認できるようにするのが理想です。これを、期首計画、前年実績、当月見込、当月実績と言う形で一覧できるよう毎月同じタイミングで情報提供できればよいと思います。

商品(アイテム)毎に実際原価を計算してマネジメントに生かしている先進的な企業も沢山ありますので、それは決して不可能なことではないとも言えます。しかし、やはり問題は間接費の配賦作業です。データを作ることが目的化してしまい、膨大な労力が浪費されてしまっているなら、それは本末転倒に他なりませんので注意が必要です。また、商品(アイテム)毎に実際原価を計算したとしても、一時的に売上が減少したときには売上に占める固定費の割合が増えるのは当然ですから、その事実をもってその製品の収益性は低い、よって商品構成を見直すべきだという結論に至ってしまう可能性もありますから、その点についても十分に注意を払うべきでしょう。

どうしても、商品別に収益性を知りたいのであれば、原価として実際原価でなく標準原価を使用する方法もあります。その場合は製造部門における増益、減益要因や、売上の増減による商品一個あたりの固定費の増減といった影響を除いてみることができるため、販売部門やマーケティング部門のマネジメントという点では十分に目的を満たしており、また配賦作業も不要なため効率よく財務データを作ることが可能となります。

あるいは、私が推奨している「限界粗利」の考え方を適用することも有効です。「限界粗利」とは実際原価のうち変動費部分のみを売上から差し引いて求めたもので、固定費が簡単にコントロールできない状況において、真の利益の源泉ともいえる値であります。実際原価のうち変動費のみ商品別に反映させて、この「限界粗利」に着目するのも作業効率性とマネジメントの目的の両方を満足させるひとつの方法と言えるでしょう。

このように、情報システムの構築は完璧を求めず、目的を達成するのに十分であればよしとして、「賢い妥協」をしてみることも重要なことであるのです。



思考をさせ、行動に移させるための情報開示のあり方。



最後に、できあがった財務データの開示、つまりだれにどこまでみせればよいのかについて考えてみましょう。開示にあたっての一番の問題は、「商品原価情報の取り扱い」ではないかと思います。なぜなら、商品原価情報を知るということはすなわち商品単価値引きの原資があるか否かを知ることに他ならないからです。もし、営業担当が販売金額だけで評価されるルールになっているとすれば、つい商品単価値引きを行って売上数量を増やそうという考えを持ってしまい、結果として企業として率先して値引き合戦に参入してしまうことにもなりかねません。特に販売部門のみが別会社になっている企業では致命的なリスクになりかねません。



したがって、情報開示のゴールデンル-ルは、(1)商品グループ別、またはブランド別の損益計算書は幅広く開示すること、(2)マネージャーには費用の詳細を見ることができるようなドリルダウン機能を使う権限を与える、(3)もし商品別単価を計算しているのであればマネージャーにその情報にアクセスできる権限を与える、そして、(4)必要に応じてこれらの情報を担当者に開示して、利益改善という側面からコミュニケーションを取れる権限をマネージャーに与える。ということになろうかと思います。



また、特に(1)については、必ず定期的にイントラネット等を通じて開示され、事実と問題点の共有がなされていることが重要です。損益の実績が人ごとではない雰囲気を全社的に醸成し、マネージャーは結果を確認する前に、すでに発生している問題点についての把握が完了している。そのような、良い緊張感を社内にもたらす情報システムを作りあげることを理想として下さい。



売れば儲かる時代の終焉とともに、販売部門やマーケティング部門の仕事は単に売上を伸ばすことではなく、売上総利益を最大化させ、販売費を適正にコントロールすることにシフトしつつあります。上記のようなリスク要因をコントロールしながらも、企業の抱える問題点を担当者と共有し、キャリアの早いうちからその対処法を考えさせることは人材教育という面でも非常に重要です。すでに立派な情報システムを導入済みの企業においても、その機能が十分に活かせず、「宝の持ち腐れ」になっていないか?ROI(投資利益率)が十分であるかを検討してみるのもよいのではないでしょうか?

コラム筆者紹介

講師紹介

講師イメージ

講師名 國方 康任
所属 リエゾン株式会社 代表取締役
略歴 1964年大阪生まれ。同志社大学工学部卒業後、TDK(株)入社、自動車用磁性材料の研究開発、海外営業、経営企画職として、世界5拠点の事業所統廃合、中国工場の設立、大型設備投資のプランニング、欧州提携企業との契約交渉、海外競合事業の買収交渉などを歴任。その過酷な交渉の中で、会計知識の重要性を肌で実感し、米国公認会計士の資格を取得。2007年より独立し、経営コンサルティングとビジネスパーソン向けの教育サービスを提供している。主なテーマは「新規事業計画立案」、「戦略的財務分析」、「M&A」など。書籍:「直感でわかる企業会計」

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