2011年4月05日(火)UP マーケティング商品開発・ブランド戦略

【連載セレンディピティを掴んだ瞬間を追う!3-1】自動車用コーティング剤が自販機に展開されていった瞬間に迫る 〜ソフト99コーポレーション〜

街そのものが実験場

image_03_01.jpg午後4時からの取材。応接間に通され、今回取材させていただく営業本部の亥子氏と開発本部の高塚氏をご紹介いただいたのもつかの間、

亥子氏:「そろそろ暗くなる前に外へ行きましょうか」
筆者:「?」
亥子氏:「見ていただきたいものがあるんですよ」
筆者:「???」

言われるがままに外へ着いていった。
本社ビルの入り口から外に出ると、すぐにその答えはあった。「ほら、あそこです。違い、分かりますか?」写真で見る以上に違いがハッキリ見えた。「他にもあるのでこちらへ...」しばらく街中を歩いていくと、ある駐車場で足が止まった。

image_03_02.jpg その一角に胸の高さほどあるコンクリートむき出しの壁や、家の外壁ブロックなど数種類の壁が立っていた。「見ていてください」というと、おもむろにホースで水をかけはじめた。「ね、右と左で違うのがわかります?このような多孔体のものにもコーティングができるのです」その壁は11年前に実験として一度だけコーティングを行ったもので、今もなおコーティングの効果は発揮されていた。「あそこも、ここも、コーティング剤が塗ってあります。」近隣の方々の協力を得て、壁、物置、カンバンなどなど、いろいろな場所にコーティング剤が塗布されていた。消費財のマーケティングでは、「売り場そのものが実験場」と言われるが、同社は、「街そのものが実験場」になっていた。 「まずは、やってみないとわかりませんから」その一言には経験に裏打ちされた重さが感じられた。

※左右のブロックは、水をかけたのに染み込んでいかない。⇒カビやコケの侵蝕を防ぐ。
中央のブロックは水が浸透し、色が変わっているのが分かる。




ヒラメキを形にする


image_03_03.jpg
話は十数年前に遡る。「従来のワックスとは違うものをつくろう!」ソフト99の中で新たな技術チャレンジが始まった。そして今から6年ほど前、自動車メーカーや整備などのプロショップ向けに、従来にはない画期的な自動車ボディ用のガラスコート剤「G'ZOX(ジーゾックス)リアルガラスコート」が開発された。従来のコーティング剤では高温時に被膜が軟化し、そこに汚れが付着してしまい、コーティングの効果は短かった。しかし、新しいコーティング剤は高温時でも軟化せず、汚れを表面に留まるため軽く拭くだけで汚れを取り去ることができ、効果も長続きするためメンテナンスの手間は大幅に軽減された。「この特徴のある商品をどこかに活用できないだろうか?」おぼろげながらも、心の片隅にその想いは居座っていた。

あるとき、自動販売機を掃除している風景が目に入った。自動販売機に飲料を充填するオペレーション会社の社員だった。「これはやはりビジネスに繋がるのではないか?」急にヒラメイタわけではなかったが、いくつかの伏線はあった。「ワックスを大量に分けて欲しい」という話がいくつかの自販機オペレーション会社からソフト99に舞い込んでいたり、ワックス使って自販機を磨いている話は以前からあった。「まず、やってみよう!、わが社にはそういう雰囲気がいつもあるのです。」それは、街そのものが実験場になっているところからも十二分に読み取れた。ただ、自動販売機は飲料メーカーの所有物だ。勝手にコーティング剤を塗るわけにはいかなかった。


スーパー銭湯が取り持つ縁

通常であれば、知り合いづてに探したり、本社の代表電話から問い合わせるなど四方八方手を尽くして、なんとか担当者にたどり着く。しかし、組織が大きい企業を対象とする場合、たとえ担当者に会えたとしても、話しが思惑通りに進むか否かは、また別の話である。しかし、同社はたまたま、子会社にて「極楽湯」というスーパー銭湯を営んでおり、そこには飲料の自販機が数台納入されていた。同社は飲料メーカーからするとお客様というポジションでもあったのだ。


飲料メーカーに承諾をもらうには時間がかからなかった。その後順調に製品テストも実施でき、結果も非常に良好だった。しかし、それは事業化のワン・ステップをクリアしたにすぎなかった。同社のガラスコート剤はプロ向けに作られており、塗布した後に24時間雨に当ててはいけないことや、均一に伸ばさなくてはいけないなど、施工面での制約が多かった。そのため製品として採用されるには、時間や人的コスト、製品改良などまだまだクリアすべき問題が山積みだった。

「餅は餅屋へ、飲料メーカーに素直に教えを請う」

自動販売機のオペレーション担当者は、自動販売機が汚れていると、まず水拭きをし、汚れが取れなくなると洗剤を使い、更に汚れがひどくなると、片手に市販のクリーナーやワックスを持って自販機を磨く。これが結構大変な作業になる。また、その一方で決まった時間内になるべく多くの自販機のオペレーションをこなさなければならないため、必然的に掃除に手が行き届かなくなる。その結果汚れて古めかしい自販機は売上が落ちる。といった悪循環に陥っていた。 また、自販機は5年程度経つと汚れが目立つため一度回収され、入念に磨かれたり、再塗装され、再び送り出される。そこには1台十数万円の費用がかかる場合もある。 「私どもは自動販売機に関しては素人です。テストを繰り返しながら飲料メーカー様から、本当にいろいろなことを教えていただきました。」 新たなマーケットへ参入するには、業界構造をはじめ、どのようなプレーヤーがいるのか、力関係はどうなのか、それを決定付けている要因は何かといった情報が欠かせない。ある程度、インターネットやデスクリサーチで洗い出すのは可能だが、そこから真のビジネスチャンスを見つけ出すことはできない。マーケティングは、現場からの声を聞くことから始まった。

偶然が成功を後押しする

飲料の自動販売機は、自動販売機そのものの製造メーカー、自販機を購入し飲料を販売する飲料メーカー、商品の補充や代金回収などのサービスを行うオペレーティング会社(飲料系列会社と専業会社がある)、そのほか設置業者や自販機の回収・整備を行う事業者などがある。 製品テストを繰り返しながら、ほぼ全ての事業者にプレゼンテーションを行っていった。製造メーカーやオペレーティング会社、設置業者や整備業者いずれも、製品としてのベネフィットは認めてもらえるが、塗布工程の増加に対するコストアップがネックとなり採用には至らなかった。中身の販売主である飲料メーカーが、採用に動かないと厳しいことが改めて浮き彫りになった。

image_03_04.jpgそのような中、「極楽湯」でテストに協力してもらっていた大手の飲料メーカーの採用が決まった。そこには新たな自販機の設置や修繕した自販機に塗布する仕組みが出来上がっていた。全ての事業者への積極的なプレゼンテーションを行い、企業と企業の間に立って新たな価値が生み出せたことが採用に結びつく大きな要因になった。しかし、それだけではなかった。偶然にも「自動販売機のメンテナンス効率の向上」が飲料メーカー社内のテーマとして上がっていたのだった。 飲料メーカーに自販機のメンテナンスに対する温度差があるものの、飲料の自販機による売上は、設置場所の飽和、コンビニエンスストアとの競争激化などにより年々厳しさを増している。そのような状況でも発売当初から今日まで着実にコーティングされた自販機は広がっている。目下、年間45万台の新しく導入される自販機とリサイクルされた自販機すべてにコーティング剤を塗布することが大きな目標だ。

商品開発の成功は、現場の中に

image_03_05.jpgこの製品の開発に携わってきたのが開発本部の高塚氏である。「当初は、自動車で使っているもので十分対応できるだろうという考えがありました。」しかし、自動販売機と自動車に求められていたものは大きく違った。自動車の汚れが目立つところはボンネットと天井といった水平面である。自販機の場合、汚れが目立つのは横の垂直面だった。 そのため、自動車に求められる高い撥水だと、水滴が伝って堆積していくことでできる汚れの垂れ筋が目だってしまう。それならば、親水のコーティング剤という手もあるのだが、親水のコーティング剤では、つやが落ちてしまったり、メンテナンス作業がしにくい。また、赤や青、白といった全ての色に対応するのも難しい。何度となく仮説と現場の声を聞くことを繰り返しながら検証していく地道な開発が続いた。 開発のもとになったのは、「蓮の葉」の原理だ。



image_03_06.jpgたまたま、蓮の葉に浮かんだ丸い滴を見た技術者が、そこからヒントを経て、研究・開発の結果、ナノテクノロジーを使った髪の毛の約15000分の1に相当する連続した突起が生まれるコーティング素材をつくり出すことに成功した。これを使うと、水が留まることなく踊ったように弾かれる。かつ、水が浸透しないことでコーティングそのものも乾くため、より強固で持ちがよくなる効果もある。


「これまでは研究室内だけで終わっていたのですが、この自販機向け製品は現場へ行って直に顧客の声を聞いて創っていきました。
研究室内だけだと、つい自分の中でこれがベストだろうという考えのもとに開発を進めてしまいますが、直接声を聞いたことで自分だけでは気がつかなかった問題点が分かり、そこにいろいろな改善アイデアが生まれました。」開発者自ら現場へ出て行ったからこそ、「撥水の技術を活かし、汚れにくく、かつメンテナンス作業のしやすい製品」という難題をクリアできたのであろう。

「いやー、亥子さんには、ほんとうに良く外へ連れて行ってもらいましたね。」 少し控えめに微笑みながら亥子氏へのアイコンタクトからは、営業と開発の強い信頼が感じられた。

コラム一覧に戻る

コラムの更新や、マーケティングに関するサービス情報をお届けします

弊社マーケティング研究協会のメールマガジンサービスは、マーケティング研究協会(以下、当社といいます)が無料 で配信するものです。

メールマガジン登録はこちらから

Page Top