2011年4月01日(金)UP マーケティング商品開発・ブランド戦略

【連載セレンディピティを掴んだ瞬間を追う!2-1】鉛筆がスピーカーの振動板になった瞬間に迫る。〜三菱鉛筆株式会社〜

1■鉛筆の芯とシャープペンの芯は似て非なるもの

image_02_03.jpg「少し言い過ぎかもしれませんが、鉛筆固体の技術を理論的に展開しています。期待できるお話ができるか少し不安もありますが、、、」穏やかな表情の中に、硬い技術の話を噛み砕いて、分かりやすく説明しようという気持ちがヒシヒシと伝わってきた。本題のセレンディピティに入る前に、鉛筆の芯から発展した技術の変化を簡単に触れておきたい。 鉛筆の芯は、黒鉛(注)と粘土(セラミック)で作られています。やわらかい材質の黒鉛に対し、粘土の配合割合を変えることでその硬さを調整しているのです。10B〜10Hまで、世界最多22種類の硬さの鉛筆を取り揃えているのが50周年を迎えた「uni」ブランドだ。「50年前の発売日10月1日をuniの日と制定されました(日本記念日協会・認定)。お休みだといいのですが。」この須田氏のお茶目な一言は、周囲を和ませ、人を話に引き込む力があった。 シャープペンの芯は、字が書けて、消しゴムで消せるという機能は同じですが、その構造は鉛筆とは全く違います。0.5mmなど"均一の細さ"と"一定の強度"や"崩れやすさ"を持たせるには黒鉛と粘土の配合では難しいのです。シャープペンの芯は、全てカーボン(炭素)で作られており、芯の内部構造を変えることで硬さを調整しています。(写真:内部構造) ここに、単に外側の形だけではなく、内側の構造を変化させることで様々な機能を持ったカーボン製品を作り上げている三菱鉛筆の新規事業の土台がある。 【注】ダイヤモンド・墨・石炭・カーボンブラック等と同様、カーボン(炭素)から成る元素鉱物。鉛が入っているわけではない。

2■技術からのセグメンテーション

カーボンは古くから身近で生活に応用されてきました。古の時代から、火を起こした後の炭で洞窟の壁に絵を書いたり、その後、電池の電極として、エジソンの電話器、最近では、カーボン・ナノチューブ、ナノ・ダイヤモンドといった新しい微細構造のものが出てきています。また、製品では燃料電池のセパレータ、半導体を製造するときの治具、航空機の機体などの用途で使われています。身近で至るところに使われているカーボンですが、実はほとんどが完成品ではなく、部品・部材として存在しています。通常カーボンから一定の形を作るには、大きなカーボンの立方体から切り出すか、繊維状にして編み上げていくしかないのですが、弊社は、シャープペンの芯といった比較的小さいカーボン製品を量産できるという強みを活かしているのが特徴です。

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カーボンの素材特性を知り尽くし、その構造を変えることで生み出される多様な機能を生み出すコア技術をベースに、新しい用途や代替素材としての可能性を見極め、特定の領域にセグメントを絞った技術マーケティングを進めている。 「まず、身近なターゲットセグメントの中からカーボンに置き換えられそうなものを作ってみるところから私どもはスタートします。そしてその有用性が見えてくるようであれば、お客様に持ちこんで意見をもらいます。そうすると、もっとこういう特性にして欲しい、こういう形にできないか、という意見がいただけます。それが量産としてうまくいくようになると、はじめて商品として販売できるようになるんです。」そういいながら、カーボンでできた小さなコイル状のバネを見せていただいた。非常に軽いが、高温の1500度になっても機能をほとんど失わず、1000万回の耐久テストもパスしている優れものだ。精密な電子部品を生産する際のプレス工程で使われており、製品精度の向上に一役かっている。

3■時代を支えたスピーカーの振動板

「今年の1月、パイオニアがレーザーディスクの生産を中止」といったニュースを覚えているだろうか。まだ、作っていたの?という方や、レーザーディスクって何?という方もいるだろう。 時は、1980年代の後半、バブル景気の真っ只中。VHSやカセットテープといった磁気記録の媒体からレーザーディスク(LD)、コンパクトディスク(CD)など、光を使った記録媒体へと移り変わる黎明期。これまで、一家に一台という大型ステレオの時代から、一人一台のミニコンポが全盛期を迎えようとしていた。ユーザーは、高価なシステムオーディオを買って家の中でよい音を聞くという大人から、アルバイトで稼げば手が届く価格設定によって大学生や高校生までに一気に広がった。しかもデジタル技術の進展で、劣化しない高音質は、音楽の加工を容易にし、持ち歩き自己を主張するファッションとして、技術の進化とともにパラダイムが大きく変わっていく節目でもあった。 その爆発的な普及を待っていたかのように、振動板への応用アイデアは、素材・技術の特性からターゲットセグメントを見渡していけば難しいものではなかった。

image_02_05.jpgそのころまで振動板として使われていた材料は、紙、樹脂、アルミなどが一般的でした。一部、炭素系の素材も利用されていましたが、単価が高いため、高級な製品にしか使うことができなかったようです。また、ベリリウムなども軽くて、剛性のある素材として検討されたようですが、毒性が強く、生産工程や廃棄の問題などで活用は難しかったのです。そこに、単価が安く、劣化もしにくく、かつ環境に適した素材として提供できたのが弊社のPFC技術を使った振動板でした。ちなみに、ソニーに提案して使われた新しい振動板の素材は、人が聞くことができない周波数の領域までを再現することができたため、"感動価値創造"のブランドコンセプトを十二分に引き出すことができたようです。未だに、この素材に勝るコストパフォーマンスを持つ素材はないとソニーやパイオニアの担当者からもお墨付きをもらっています。

4■一つの足がかりから偶然を手繰り寄せる「全ては人のつながり」

image_02_06.jpg 三菱鉛筆のPFC技術の応用範囲は広いが、そのほとんどは、カーボンの特性を知り尽くしたプロフェッショナル集団のミーティングを通じて生まれてくる。そのミーティングの中では、用意周到な仮説づくりを怠らない。パナソニックのカーボンを使ったヒーター、写真の現像液の濃度管理に使われるPFC技術をつかった電極センサーなど、カーボンの特性を追求しているからこそ、なせる技であろう。しかし、一見ロジカルな成功にも見えるが、実は上手くいったケースは偶然によるところも大きいと須田氏は語る。 パナソニックさんも発熱体も探し始めたところだったし、先の振動板や電極センサーも偶然のタイミングだった。 「必ず上手くいっているものは、時代もあるのでしょうが、ズバッと入れます。苦労して入っているものは成功が少ないような気がします。ちょうど相手も探していたところに当たるケースが多いのです。もしかしたら、いろいろなところから情報を得る努力をしているのでそれが、巡ってくるのかもしれません。必ずしも相手が研究者である必要はないんです。購買担当の方でも資材担当の方でもあまり関係ないようです。お話をさせていただいたときに、相手の方が感性の鋭いとこちら側の情報にピンときて、紹介していただくケースがよくありますね。」 「先日ある大学の先生にある機器の測定試験をお願いしており、ある程度実用化も見えてきたので、はじめてターゲットとしているメーカーに持ち込んだのですが、偶然にも、そのメーカーに部品を供給している企業の方から当社へ問い合わせがあったのです。当然ながらそのビジネスはトントン拍子に話が進んでいます。今でもその担当者とは、絶妙なタイミングだったと話をするくらいです。」 偶然を呼び込むために、常日頃から周辺への情報提供は欠かせないようだ。ただ闇雲に情報を流すのではなく、業界の流れ・開発動向を読んでターゲットを絞り込んでおくこと。そして、キーマンに先手を打った形での情報提供が、後々に花を咲かせることもあるようだ。大手の企業へアプローチするときは、様々なルートを活用しながら何度でもアタックしており、事前に特許情報を調べ、インターネットからの事前情報収集と分析は必須だ。そして、業界に入れたところから、その次の横展開を考える。 偶然や絶妙なタイミングは、そんな地道な努力があってこそ、実るのであろう。 (文筆:マーケティング・コンサルタント 萩原洋史)

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