2011年4月01日(金)UP マーケティング商品開発・ブランド戦略

【連載セレンディピティを掴んだ瞬間を追う!1-2】〜三菱鉛筆株式会社〜

4■想いが重なる。

「これは推測なのですが、、、」と前置きがあったものの、それに続いた数々の言葉には現実を目の当たりにしたようなリアリティと重厚さがあった。 「元来、技術屋は技術を活かして"新しいものを作り出したい"、"市場を切り開くことで社会に貢献したい"という想いがあります。当時としては、伸びる要素が見えてこないマーケットの中での開発という一種の閉塞感を感じていたのだと思います。私も技術屋ですので当時はそんな雰囲気が少なからずあったのだと思います。」

強い想いとは裏腹となったネガティブな空気。これが振り子のように作用し、後の事業化を推し進める原動力となって行く。

「新しい製品の開発・・・このような開発案件に、時間や人の面で、対応できないことも数多くあります。しかし「誰も手がけていない面白さ」や「もしかしたら作れるかも」と思った技術者が密かに試作を進めていたようです。そしてあるタイミングで製品が作れる話が表出したのだと思います。もしかして化粧品メーカーからの話が正式な開発テーマとして掲げられていたら、事業化までに結びついてはいなかったかもしれません。この事業は、ご依頼いただいた化粧品メーカーの想いと当社の状況や技術者としての想いがまさに重なったタイミングだったのです。」




5■想いが壁を越える


一定規模の事業として超えなくてはならない「コストの壁」。しかし、一度エンジンがかかって勢いを得てしまうと、そのハードルは思いのほか高くないのかもしれない。最初は若干高いコストでの納品や不透明な投資判断をせざるを得ない状況もあったが、そこは100年に渡って鉛筆生産工程の自動化システムまでを作り上げたメーカーとしてのノウハウできりぬけた。工程を分析、創意工夫を繰り返すことで、一部の工程だけを自動化する「半自動化」を行うことによって効率の高い生産ラインを作り出し、コスト削減に対応できたのだ。




6■セレンディピティを生み出す土壌


image_01_05.jpg「今にも開発の自由度は、様々な形で引き継がれています。」
創業123年目となる同社であるが、なお新しい挑戦は続いている。
開発者は、自分が携わる業務のほかに、勤務時間の20%まで他の商品・アイデアに費やすことが可能だ。1週間のうち半日くらいにあたる時間をこれまでにない面白い商品を生み出すために使うことが認められている。
また、次の大型商品を創るための「アイデア会」を社長への直接答申の場として、年に1回開催され実際に成果に結びついている。
「アイデア会をはじめてから十数年が経ちます。最初のころは、今思えば幼稚なアイデアが多かったのですが、繰り返し実施していくうちにレベルアップしてきたと思います。「言われてみるとそうなのだけれども、それ面白いねっ!」という深みのあるアイデアが出てくるようになりました。」
その一つが、08年発売の「クルトガ」だ。「芯が回ってトガりつづける。文字が太らない。」といった従来のシャープペンの問題をユニークな視点と技術の力で解決した大ヒット商品である。「この商品もシャープペンシル開発者の閉塞感の中から生まれた商品です。アイデア会に出てから商品化まで2〜3年かかっています。」開発に一定の自由度を持たせながら、長い歴史を重ね、じっくりと商品を育てる気質のある同社ならではの商品だろう。
開発者に一定の自由度を持たせるといっても、「他のこと(カテゴリーを広げて)を考える時間を意図的に作り出す」、「アイデアを出すための期限を決める」ことが重要だと宿岩氏は付け加えた。
経営TOPの思想として「技術やノウハウは蓄積されないと新しいヒット商品は生まれない」という信念がある。「本当にそれを実感しますね。化粧品事業をはじめた当初は、採算の合わない時期が続きました。その途上には、様々な意見があった中、やり続けなければ成功もないという信念のもとに、今があると思いますし、成功に導く原動力になったとも思います。」と宿岩氏の感慨深げなコメントが印象に残った。




7■「何か新しいものが欲しい」に応える


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現在の化粧品OEM事業は、当初とは様相がだいぶ異なっている。顧客である化粧品メーカーから商品製作を頼まれることは稀であり、ほとんどが提案して仕掛けていく形のビジネス・スタイルだ。顧客のところへ行くと「何か新しいものはない?」といった漠然とした要求をされるケースが多くなっている。また、鉛筆と違って、流行のサイクルやブランドのサイクルが短く、開発によってはスピードが要求されてきている。最近では、いかに定番となるロングセラー商品を提案できるかが成長の鍵だ。同社でも、3年前にペン先を新たな形状の弾性体にして、そこから液を滲み出させる新しい機構のリップグロスの開発や、その進化バージョンとして、より女性が使い易い形状の塗布具を開発し、採用となっているケースがある。「これまでの筆タイプのリップでは、毛先などに唾液が付着して、衛生面での問題があったのですが、この商品は、ティッシュなどでも簡単にふき取れるため使用上の保管面でも非常に優れています。今でも店頭に並んでいる商品です。」宿岩氏の表情には、ユーザーの心を深く捉えた開発が実りつつある自信とチャレンジャーとしての気概が垣間見えた。 新しい技術と顧客のベネフィットを結びつけるといった発想のたくましさと愚直な姿勢。数々の化粧品メーカーがしのぎを削るなか、次のスタンダードは鉛筆メーカーから生まれてくるかもしれない。(文筆:マーケティングコンサルタント 萩原洋史)

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